月光の仮面
「詳しいのね」
「ヨーロッパじゃ大きい鋏の蟹とか、美人の横顔とかとも言うらしい。美人なんていうのはきっとラテン系の思考だな。ライオンが吠えている姿だって言うところもあるらしい」
「へぇ、すごいんだ」
本心ともただの相槌ともとれる返事だった。
私は柄にも無い言ってしまったと少し後悔した。
「月っていつも同じ模様だろ。不思議に思ったことは無い?」
「なぜ不思議なの?」
「中学の時だったかな、その事に気づいた時は不思議と言うより感動したな」
「月は地球の回りを回っているだろ? で、月自身も自転している。地球が太陽の回りを回るようにね」
「うん……」
「でも月はずっと同じ顔を地球に向けているんだ。決して後ろを見せる事は無い。だからいつも同じ模様なんだよ」
まるでボールにヒモを付けて振りまわす様にだ……。
私はむしろみゆきがそれを知らなかった様なのを不思議に感じていた。
中学の時に友人達にその事を話すと、そんな事は常識だろうとバカにされた記憶があったからだろう。
もっとも女という生き物の多くはそんな事には関心を示さないのかも知れない。
これまで付き合ってきた女達にはこんな話しをした事など無かったのだ。