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茶房 クロッカス その2

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 六月も中旬を過ぎた頃のこと。
 薫ちゃんがうちの店で働くようになってからというもの、何となく客数が以前より増えているような気がして、ちょっと伝票を繰って調べてみた。
 以前は、一日の来客数が二桁になる日が少なかったんだけど……オォ====ッ!? 俺は目を見張った!
 な、何と……一日の来客数が一桁の日の方が少なかった!!
 うーん、やっぱり可愛い(イヤらしい意味じゃなく)子が「いる」と「いない」とではこんなにも違うんだろうか?
 今まで気付かなかった俺もどうかしてるけど、所詮人間なんて不調の時にはあれやこれやと考えたり思い悩んだりするけど、いざ好調になると案外なーんも気にしなかったりする。俺もそんな一般ピープルの一人なんだなぁ……などと、のんびりそんなことを考えていたある日のこと。
 俺はいきなり薫ちゃんから告白された。
 その日もそこそこ忙しいランチタイムをこなし、二人でくつろぎタイムを過ごしている時だった。

「ねぇマスター、実は私……、好きな人ができちゃったんだぁ……」
「ん?」
 脳ミソが急ピッチで脳内を巡り(脳ミソって巡る?)、俺が次に発した言葉は、
「エエーーッ!?」だった。
《ま、まさか? い、いゃそんなバカな――でももしかしたら……》
 俺は恐る恐る聞いてみた。
「薫ちゃん、それマジで言ってる?」
 薫ちゃんは真剣な眼差しでコクリと頷いた。
《マジなんだぁーどうしよう……》
 俺の心臓はドキン、ドキンと高鳴った!
「で、そ、その相手って?」
 俺は期待と不安に胸がはち切れそうな思いで尋ねた。
「うん、それはね……」
《それは? ――ゴクッ(唾を飲む)》
「それは、高校の時から付き合っている人でね、今は普通の会社員で、私より三つ年上の二十三歳なの」
「へっ!?」
 俺は踏んづけて潰れたボールのような声を出した。
《ン? ん? それって俺じゃないってことだよなぁ……》心の中で呟いた。
「なぁーんだ、そうかぁー。そうだよなぁ……」
 俺は、ガッカリすると同時に安心もしたのだが。――うーん、やっぱり複雑な心境だった。
「――そうなんだぁ、薫ちゃんそんな人がいたんだぁ……。ふぅーん」
 俺は何と言うべきなのか言葉を探していた。
「それでね、私、赤ちゃんができたみたいなの」
「エエーーーッ!?」
 今度こそ俺は引っくり返った。
「もぅマスターたらっ、何もそんなにびっくりしなくても~」
 そう言いながら薫ちゃんはクスッと笑った。
「薫ちゃん、笑ってる場合じゃないだろう。どうするつもりなんだよー」
 体制を立て直して俺は言った。
「ん? もちろん産むよ! だって私と彼との赤ちゃんだもん」
「………」
 俺は言葉を失った。