茶房 クロッカス その2
「マスター、マスター? お客さんですよ! 大丈夫?」
俺がぼぉーっとして、カウベルが鳴ったのにも気付かずにいたものだから、薫ちゃんは心配になって声をかけたようだった。
「あぁ、ごめん。ちょっと考え事してただけだから……」
俺がそう言うと、薫ちゃんはホッとしたようににっこり笑った。
夕方、薫ちゃんが帰ったあと重さんがやって来た。
「重さん、あれから仕事の方はどうだぃ?」
「あぁ、この前は悪かったなぁ、マスターにも心配かけちまって。あれからは万事うまくいってるから、心配はいらねぇよ。コーヒー頼むよっ」
コーヒーを飲みながらしばらく雑談すると、
「じゃあまた来るよ」
そう言って重さんは帰って行った。
《今日はなんだか疲れたなぁ~》
店を閉め、いつものように自転車で家に帰ると、食事だけ軽くとって、テレビも見ないで早目に布団に入った。そして、久しぶりに夢を見た。
俺は公園のベンチに腰掛けて、優子が来るのを待っている。
遠くに優子の姿を見つけて、俺は立ち上がり、
「おーい、優子ー!」と大声で呼びながら手を振った。
優子は俺に気付くと、手を振り返して駆けて来た。
俺は今の姿なのに、優子は高校生のままだった。
近付くに連れ優子の姿はどんどん大人に変わって行く。
そして俺のすぐそばまで来ながら、俺に知らん顔をして通り過ぎようとする。
「優子~!?」
俺は慌てて腕を掴もうとしたのに、何故か空を切ってしまった。
「優子ーー!!」
その瞬間、優子の姿は消えて、俺は自分の声に目覚めた。
もう一度寝ようとしたが、優子の思い出が頭の中をせわしなく駆け巡って、とうとうそのまま朝を迎えてしまった。
優子……どうしているんだ? ゆうこ……。
作品名:茶房 クロッカス その2 作家名:ゆうか♪