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茶房 クロッカス その2

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 まだ二十歳なのに早過ぎるんじゃないのか?
 俺はこの年でもまだ独身なのに……、内心ではそう思っていた。が、そうも言えない。
「彼にもそうしろって言われてるし……、ちゃんとプロポーズもされちゃったんだ~えへへ」
 薫ちゃんは満面の笑みを浮かべてそう言った。
 やっと少し心臓の動悸が治まった俺は、
「じゃあもうご両親には話したのかぃ?」と聞いた。
「うん、近々彼がうちに挨拶に来てくれることになってるの」
「そうか、それなら良かった。じゃあ、おめでとうだな」
 そこで俺はやっと笑顔を作る余裕ができた。
「それでね、私ここを辞めることになるけど……、マスター大丈夫?」
 薫ちゃんは、俺の顔を下から覗き込むようにしてそう言った。
「えっ!? も、もちろん大丈夫さ。だって元々一人でやってたんだからさ」
 立場上そう言ったものの、内心では、
《困ったなぁ、今まで薫ちゃんがいてくれたから……。はぁ、どうしようこれから……》と思っていた。

「――で、いつ頃までここに来れるんだぃ?」
「うん、多分来月いっぱいくらいかなぁ――マスターホントに一人で大丈夫?」
 薫ちゃんは心配そうに見つめていた。
「まっ! 何とかなるさっ」
 そう言うと俺はにっこり笑って見せた。

 夕方、重さんがいつものようにやって来て、薫ちゃんが辞めることを聞くと本当にがっかりしたように、
「そうか、辞めちまうのかぁ、せっかく毎日薫ちゃんの顔を見るのを楽しみにしてたのに……、本当に残念だなぁ。また悟郎ちゃんのつまんない顔だけになっちまうのかぁ」 そう言うと大きな溜息をついた。
「もうー重さん、そんな言い草はないんじゃないかぃ?」
 笑いながら俺がそう言うと、
「あっ! こりゃまった失礼~」 
 と、昔流行ったギャグみたいなことを身振りを交えて言った。
 俺も薫ちゃんも大声で笑った。
 驚きの一日ではあったけど、その日もつつがなく終わった。