茶房 クロッカス その2
「マスター、どうした? ぼぅーっとして」
小橋さんの声に突然現実に引き戻された。
「あぁ、ちょっと昔のことを思い出しちゃって……アハハ」
笑ってごまかそうとしたのに、
「えっ何だい? 昔のことって」
小橋さんは目を輝かせて俺を見ている。
「うーん、それより小橋さん、その彼女とどこまでいったんですか?」
負けずに水を向けてみた。
その後の小橋さんの話によると、何度か待ち合わせて一緒に飲んだが、まだその先にはいってないらしい。
「今度機会があったら一緒にうちに来て下さいよ。小橋さんがそんなに気に入ってる人、俺も見てみたいですよー」
「よし、じゃあ楽しみに待っててくれ」
「ところで、その人独身なんですか?」
「いや、なんでも離婚して、娘と二人で暮らしてるらしいよ」
「そうなんですか……」
そのあと、出勤してきた薫ちゃんも仲間入りして、三人で世間話を少しした。
小橋さんも薫ちゃんのことは気に入ってくれているようだった。
ランチタイムに入り、俺が忙しくなったので小橋さんは、「じゃあまた来るよ」そう言って帰って行った。
やっと忙しい時間帯を過ぎると、今日は久々にお気に入りの一曲をかけてみた。
紅茶の美味しい喫茶店
白いお皿にグッバイ バイバイ
そしてカップにハローの文字が
お茶を飲むたび行ったり来たり
できることなら 生まれ変われるなら……
懐かしい。柏原芳恵の「ハローグッバイ」だ。
もし本当に生まれ変われるなら、今度こそ俺は、絶対優子を離したりはしないのに……。
曲を聞く内、俺は過去への扉を開けてしまったようだった。
作品名:茶房 クロッカス その2 作家名:ゆうか♪