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茶房 クロッカス その2

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 ――あれは一カ月ほど前だったなぁ……。
 俺は仕事が終わったあと、久しぶりに飲みたくなって、ちょうど翌日が休みだったし、いつもの行きつけの店に寄ったんだ。
 カウンターに座って、店のママと世間話をしながら焼酎を飲んでいた。
 周りの客がカラオケを歌い出して、ママが俺にも歌えって言うもんだから、じゃあデュエットでも歌おうかってことになって……。
 相手を探してふと見ると、カウンターの反対側の端っこに、四十歳前後のいい女が物憂い様子で一人で飲んでたんだ。
 俺はピピーンと来たねっ。だからグラスを持って彼女のそばへ行き、
「もし良かったら一緒に飲みませんか? 俺も今日は一人なんで……」 
 って言ってみた。
 最初はびっくりしたようだったけど、その人はすぐ笑顔になって、
「あ、私なんかで良かったらどうぞ」
 そう言ってくれたんだよ。嬉しかったねー。なんたってその人、笑顔がすごく可愛いんだよ!

 小橋さんは思い出したようにまた、にやっと笑った。
 小橋さんの話を要約すると、その後、彼女とカラオケで一緒に歌い、楽しい会話を交わし、帰り際にやっと彼女の名前を聞き、携帯のメールアドレスを交換したらしい。
それで、次回のデートの約束をするために彼女にメールを打っていたのだと、そういうことのようだった。

「で、その彼女と、これからどうするつもりなの?」と、俺が尋ねると、
「マスター、そんなの決まってるでしょうが――もちろん、目指すは最後まで……だよ」
 そう言うと小橋さんはイヤらしい目をして、くっくっと笑った。
《奥さんがいるのに……、女に関しては病気だな》俺は内心そう思っていた。
「それでその人、名前何て言うの?」
 特別深い意味もなく聞いていた。
「大谷優子さんて言うんだよ! 優しい子って書くんだけど、本当に優しい人なんだ」
 自慢気に話す小橋さんの声を遠くに聞きながら、俺は思い出していた。
《優子、彼女と同じ名前だ。まぁよくある名前だからきっと偶然なのだろうけど――優子、俺の優子。君は今どうしているんだろう。俺のことなどとっくに忘れて、幸せに暮らしているんだろうなぁ……。俺は今でも君を……》