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茶房 クロッカス その2

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 それから数日後、七月も残すところ数日となったある日、沙耶ちゃんがアルバイトの内容の打ち合わせを兼ねて挨拶に来た。
 薫ちゃんはまだ来ていなかったし、打ち合わせはすぐに終わったので、そのあと二人で雑談をしていた。

「沙耶ちゃん、沙耶ちゃんのご両親はお元気なのかい?」
 俺がそう聞くと、
「えっ、――母は元気ですが、父は……どうなのかしら……?」
「ん? 沙耶ちゃんお父さんは一緒に暮らしてはいないのかぃ?」
「――えぇ、実は私の両親は離婚したんです。私が中学校に上がる前に……」
 淋しそうにそう言った沙耶ちゃんに、俺は悪いことを聞いてしまったなぁと思い、
「あ、ごめん、悪いこと聞いちゃったな」と謝った。
「いいえ、大丈夫。もぅ慣れてるから……」
 沙耶ちゃんは、少し俯き加減にそう言った。

「お母さんは何の仕事をしてるの?」
「母は、父と別れてからは私を育てるために、保険のセールスレディになったんです。それからずうーっと。今も頑張ってやっています」
「そう、保険の仕事かあ。そりゃあ大変なんだろうなぁ。俺も以前、車の営業をしてたことあるから、営業の大変さはよく分かるよ」
「へぇーー、マスターが車の営業? 何だかちょっと意外かも……」
「はははっ、そうかぃ?  成績悪くてさあ、いっつも上司に怒られてばっかりで、だからいい加減嫌気が差したのさっ」
「それで、この店をオープンしたんですかぁ?」
「まぁそういうところだね。あははは……」
「うふふふ……」
 二人で笑っていると、そこへ声がした。
「マスターおはようございまーす!」
 元気な声で、薫ちゃんがやってきた。
「あっ、沙耶も来てたんだねっ。おはよう」
「薫、おはよう。もう少しだね」
「うん。沙耶、私がいなくなった後ここを頼むね。マスターは時々ぼぉーっとするから、きっちり監督してやってねぇー」
 そう言うと薫ちゃんは、大声で「あっはっはっは」と笑った。
 俺と沙耶ちゃんも一緒になって笑い、
「沙耶ちゃん、そういうわけだから、頼りないマスターを宜しく頼むよ」
 俺はそう言って、改めて沙耶ちゃんに挨拶をしたのだった。
 お昼少し前に、沙耶ちゃんは帰って行った。