茶房 クロッカス その2
そこまで話し終わると、京子ちゃんの頬を再び涙がツツツッーと流れて落ちた。
京子ちゃんの長い告白を聞いていた俺は、辛くなったと同時に、
《京平は一体どうしてるんだ!? 京子ちゃんがこんなに苦しんでいるのに、なぜ連絡を寄越さないんだっ?!》と、怒りが込み上げてきた。
京子ちゃんは思っていたことを全部吐き出したせいか、何も言わなくなった。
俺の言葉を待っているのかもしれない。俺は何と言えばいいんだろう?
しばらく無言の時が続いた。
ちょうどそんな時。
「おはようございまーす!」
そう言って薫ちゃんが出勤してきた。
「あっ、おはよう、薫ちゃん」
そう言うと同時に、俺は京子ちゃんを見た。
彼女は目立たぬように涙を拭き、
「薫ちゃん おはよう」と、健気に言った。
「あら、京子ちゃん今日は早いのねぇ。どうかしたの?」
まさか今まで京子ちゃんが泣いていたとは知らない薫ちゃんは、可愛い目をクリクリさせながら、俺と京子ちゃんの顔を行ったり来たりした。
俺は説明するべきなのか、どうなのか分らなかった。
こういうことになると俺は、からっきしダメ男だということを改めて悟った。
すると、京子ちゃんがわざと明るい口調で、自分のことを話し始めた。
「薫ちゃん、薫ちゃんは今度結婚するんだよねぇ。いいよね。羨ましいよ。私なんて、好きな彼からはずっーと連絡ないし、諦めて他の人を好きになろうとしても、その彼のことが頭を過ぎって……。結局、彼を忘れられないんだもん」
「………」
薫ちゃんは黙って聞いていた。
「薫ちゃん、私どうしたらいいと思う?」
京子ちゃんの顔を見ると、またその瞳からは涙が零れそうだった。
「京子ちゃん、私、何て言っていいか分からないけど……、忘れようとしても忘れられないんなら、忘れさせてくれる人が現れるのを待つか、自然に忘れる日が来るのを待つしかないんじゃないの?」と、優しく言った。
《おーっ! さすが女同士。なんだか説得力あるなぁー》
俺はただ感心して見ていた。
すると京子ちゃんは、自分に言い聞かせるように言った。
「うん、そうだよね! もっといい男がいるかも知れないもんねっ」
どう見ても無理してるんだろうなぁと思いながら、俺は京子ちゃんがそう言うのを聞いていた。
「――そう言えば、薫ちゃんの旦那さんになる人の話聞いてなかったわ。どんな人なの?」
京子ちゃんは、わざと話題を変えようとしたのかそう言った。
「私たちもね、ここまで来るまでには結構色々あったのよ。だってねぇ……」
その後二人の会話は、薫ちゃんと彼との恋愛物語に移って行ったようだったが、どうせおじさんの出番はないし、ランチの準備もあったから、俺は奥で一人で作業をしていた。
作品名:茶房 クロッカス その2 作家名:ゆうか♪