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茶房 クロッカス その2

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「うちの会社は、前にも言ったと思うけど建設会社なの。
 私は総務課に所属してるんだけど、総務課って結構他の課の人も出入り多くてね。
 営業の阿部さんて人は、私より少し先輩になるんだけど、総務課に来ると必ず私に声を掛けて行ってくれるの。
 彼はまだ若いけど営業部の中では成績優秀で、社内では将来のホープと目されてるような人なのよ。
 だから当然なんだけど、彼を狙ってる娘はたくさんいるわ。でも、私には京平がいるから気にしたこともなかった。
 でもね、社内で私を呼ぶのも最初の頃は名字だったのが最近では『京子ちゃん』になって、《あれぇ~?》っては思ってたんだけど……」
 そこまで話すと疲れたのか、彼女の話を聞きながらさりげなく俺が入れた紅茶を一口飲んで、すっと涙を拭いた。
「――それでね、昨日の夜、会社の仲間同士でちょっとした飲み会があって、私も誘われて参加したの。そしたら阿部さんも来ててね。
 彼とは、会社外で話したことってなかったんだけど、結構話が弾んでね。
 たまたま、彼が私の隣に座って一緒に話をしながらお酒を飲んでたの。
 そしたらこっそり彼が、私の耳元で『二人っきりで二次会に行かないか?』って囁いたの。
 私は正直迷ったんだけど、彼のこと嫌いじゃないから、ま、いいかなって感じでOKしたの。京平のことも忘れた方がいいのかも……とも、思っていたし。
 最初の店がお開きになって外へ出ると、阿部さんは先に出て私を待ってたみたいだったわ。
 みんながそれぞれ散り散りになる中で、私は阿部さんに腕を引かれて歩いて、一軒のスナックに入ったの。
 その店はママさんが一人でやってる店で、ママさんも気さくで楽しい人だったから、私たちは楽しく時間を過ごしたの。
 阿部さんは私が思っていた以上に善い人だったし、素敵な人だった。
 一緒にカラオケ歌ったり、ダンスも踊ったの。それも初めてのチークを。
 彼の腕に抱かれて、彼の心臓の鼓動を聞いていると、何だか私の方がドキドキしてきて、ふいに京平に抱かれた時の記憶がまざまざと甦って来たの。
 そしたら急に胸が苦しくなって……。阿部さんには申し訳なかったけど、途中でダンスをやめて席に戻ったの。
 阿部さんはどうしたんだろうって顔して見てたけど、その後、私はなるべく普段通りにお喋りしたから、そのことについては彼は何も言わなかった。
 でも、その帰り道……。
 私たちは並んでおしゃべりしながら歩いていたの。駅のタクシー乗り場に行くつもりで……。
 ところが歩いている時、いきなり抱き締められてキスされたの。

 (そう言った途端、京子ちゃんの頬がみるみるピンクに染まっていった)
 
 でも私、その時は何が起こったのか一瞬分らなかった。
 ハッと気が付いた時、私、無意識に彼を突き飛ばしてたの。それも思いっきり!
 彼はよろけたけど、さすがに転びはしなかった。でもびっくりした顔で私を見ていた。
 私は慌てて『ごめんなさい』って謝ったの。
 彼は怒ったりはしないで、
『いいんだよ。僕の方こそびっくりさせてごめん!』って言ってくれた。
 でも私、その時分かったの。
 京平と初めてキスしたのは、初めて一緒に行った映画館で映画を見ている時だった。やっぱり突然だったけど、でも違ったの。
 私は、素直に受け止めることができたの。それなのに………。
 阿部さんにキスされた時、瞬時に比べていたの。京平との時と。
 そしてやはり京平じゃないとダメなんだって思った」