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茶房 クロッカス その2

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「彼女にはね、高校の時から付き合っていた人がいたんだけど、その彼が大学に入って間もなく、他に好きな人ができたらしくってね、ずいぶん冷たく振られたらしいのよ。
 彼女は彼のことをとっても好きだったから、相当ショックだったようで、しばらくは毎日のように泣いていたみたいなの。しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、傷ついた彼女にプロポーズした人がいたのよ。
 優子にしてみれば、そんな時にいきなりプロポーズされたって、そんなに簡単に彼を忘れるなんてできないじゃない? でもね、その人、それも承知の上で優子を大切にすると言ってくれたらしいのよ。そこまで言われりぁ、どんな女だってホロッとくるわよ。ましてや、その時の優子の心は、淋しさでいっぱいだったんだろうから……。
 それからしばらく二人は付き合って、期間こそ短かったけど、周囲のみんなにも祝福されて結婚したのよ。そして娘さんが生まれてね。これが可愛い子なのよ。
 ――で、そうね……、いつ頃だったかなぁ、ご主人が急に暴力を振るうようになったらしいの。私もそこのところはあんまり詳しくも聞けなくて、何となくしか分らないんだけど、どうも仕事のことで、彼女に対して八つ当たりしてたみたいなのよ。ところが、それが常習になってしまったみたいなの。
 優子も悩んでいたし、迷ってもいたわ。でも、ついには子供にまで暴力を振るうようになったとかで、結局離婚したの。
 それからというもの、女手一つで娘さんを育ててきたのよ。
 彼女は結構美人だし、性格も良いから、言い寄ってくる男性もたくさんいたらしいんだけど、やはり子供のためを思って再婚しなかったみたいなの。
 ――というより、最初から誰とも付き合わなかったのよ。もしかしたら、暴力に対する恐怖が男性への恐怖にもなっていたのかもねぇ。
 でもねぇ、私としては優子にもうひと花咲かせて、幸せになってもらいたと思っているのよ」
 しんみりとママが語った。
「――まぁ、小橋さんは妻帯者だから、資格はないけどねっ。うふふっ」
「そうなんだぁ、そんな人なんだね優子さんて……。苦労したんだろうなぁ」
 ママの話を聞いて、俺は心から彼女が可哀想になり、そう呟いた。
 俺が愛した優子はきっと幸せになっているんだろうけど、同じ名前の優子さんが苦労したんだろうなあと思うと、胸が痛かった。
 小橋さんはそれでも、ひがみっぽい表情でこう言った。
「ママ、じゃあ俺は資格なしかぃ?  それは淋しいなー」
「何言ってんのよ! 奥さんいるくせに。奥さんに言っちゃうよぉー」
「ええぇぇーー、それだけはご勘弁を!!」 
 半分笑いながら小橋さんが言った。