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茶房 クロッカス その2

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 そのあと店を閉めて家に帰ろうと外へ出て、自転車でちょっと走った所で、ばったり小橋さんに出会った。
「マスター、今帰りなのかぃ?」
「あぁ、誰かと思えば小橋さん。小橋さんも今帰りなのかぃ?」
「そうさ、今日は普通勤務だったんだよ。ちょうど良かった。明日が休みだから今からちょっと飲みに行こうと思っていたところなんだけど、マスター、良かったら一緒に行かないかぃ?」
 小橋さんはJRの職員で、車掌をしているらしくて、勤務時間も交替勤務でかなり不規則なものだと聞いていた。
 こんな風に出会うことも滅多にないことだし、どうせ帰ったところで誰かが待っているわけでもないので付き合うことにした。

「で、どこに行くんだぃ?」
「うーん、そうだなぁ。じゃあ俺の行きつけのRって店に行こうか?」
「あぁ、任せるよ。近いのかぃ?」
「うん、歩いてもすぐだよ」
 俺たちはぶらぶら歩いて(俺は自転車を押しながら)、その店に向かった。
 俺は酒は飲めなくはないけど、普段はほとんど飲みに行くことなどない。
 一人で飲むなんて淋しいし、仮に酔っ払って帰っても誰も介抱してくれるわけでもないから、どうしてもそういう方面は縁遠くなってしまうのだった。
 だから今日の相手が小橋さんというのは、ちょっと悲しい気もしないではないが(やっぱ素敵な女性の方が……)などと思いながら歩いていたら、小橋さんが少し先の店を指差して言った。
「ほらっ! あそこだよ」
 その方へ目をやると、店の前の路上に置かれた電飾看板が、ピンクの丸文字で『R』と一文字だけ書かれて、ピカピカ光りながら俺たちを招いていた。
「――ふぅーん、ここかぁ……」
 そう言いながら小橋さんについて黒い重厚感漂う扉を開け、その店に足を踏み入れた。
 Rのママは、俺とあまり年が違わないように見えた。
「ママ、女性に年を聞くのはご法度かもしれないけど、いくつなんだぃ?」
 試しに聞いてみた。
「まぁ、初めて来ていきなり『年は?』ですか? ずいぶん無粋な人ですねぇ~。うっふっふっふ」
 そう言って見事にはぐらかされた。
 小橋さんのキープしていたボトルの焼酎を遠慮なく戴き、少し酔いが回ってきた頃、小橋さんのカラオケタイムが始まった。
 幸い俺たちが来た時にいた客が帰ったので、ほとんど貸し切り状態になった。