姉、そして妻と娘
姉の葉子が儚く逝ってしまった。拓也は途方もなく悲しかった。
それは父の死よりも、そして母の死よりも悲しかった。
「お姉ちゃん、なんで?」
拓也には、そんな言葉が毎日続いた。
姉のお陰で、会社勤めもできるようになった。これからは姉に恩返しをし、幸せになって欲しいと願っていた矢先のことだった。
ひとりぼっちになってしまった拓也。姉の人生を、もてあそんだ運命を恨んだ。そして、自分達の宿命を憎んだ。
しかし、縁とは実に不思議なものだ。
そんな落ち込んでいる時に、拓也は愛沙(あいさ)に巡り会った。
愛沙は明るかった。
それはまるで、拓也が経験してきた闇や不幸を、温もりのある光で照らしてくれるかのように。拓也は一人生き延びていくためにも、すべてを忘れてしまいたかった。
そんな気持ちの中で、拓也はどうしようもなく愛沙を好きになってしまった。
しかし、拓也は思った。それは悲しみからの逃避なのかも知れない。
だが、己の感情を抑えることはできず、恐る恐るながらも付き合い出した。
愛沙も拓也のことを真剣に想ってくれた。
そして、恋に夢中の二年が過ぎた。