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姉、そして妻と娘

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あの花火の夜、姉葉子が着けていたブローチ。
それは父の形見であり、母の形見でもあった。

そして、姉が一番大切にしてきた宝物だ。

「お母さんが一番好きだったのは拓也よ。だから、もらって」

拓也は、そんなことをぽつりぽつりと繰り返し話す姉から、それを受け取ってみた。
よく見ると、それはピンク色の可愛い二輪の薔薇の花。その珊瑚のブローチなのだ。

あの花火の夜に、姉に欲しいとねだったのはこれだったのかと、拓也は思った。そして、その台座の裏を見てみると、文字が刻まれていた。

「I love you.」 と。

あの時、姉は言っていた。お母さんが、お父さんからもらった物だと。
そうなのだ。これは父が愛する母に贈ったブローチ。父は母を絶対に愛していたはず。そして父は、母と幼い二人を残し、無念の中で逝ってしまった。

母は、父との愛の証を、娘の葉子にきっと伝えておきたかったのだろう。

しかし、それを受け取った姉の葉子はそれを背負い、拓也の母代わりとなり、今まで一所懸命に働いてきた。

そして、姉の葉子は唐突に、悲しくも亡くなってしまったのだ。ただただ短い言葉、それを拓也に言い残して。

「ねえ拓也、これね・・・・・・拓也の一番好きな人にあげて」と。


作品名:姉、そして妻と娘 作家名:鮎風 遊