姉、そして妻と娘
こうして葉子は、拓也とともに叔父の家を出た。
そして、とにかくそこから一所懸命働き始めた。
ただただ弟の拓也のために。
青春の喜びも感動も知らず、苦労ばかり味わった葉子。
だがその甲斐あってか、拓也は大学を卒業できた。そして良い会社にも就職できた。
しかし、得てして不幸はさらに起こるものなのだ。
姉の葉子が、これまでの苦労できっと疲れ切ったのだろう。大病を患ってしまったのだ。
既に拓也は働き始めていた。そして、給料を手にするようにもなっていた。
これからは姉に精一杯の恩返しをしよう。そう思っていた。
そんな矢先のことだった。姉の葉子は、あっけなく逝ってしまったのだ。
拓也は今でもしっかりと憶えている。
姉の葉子が倒れ、入院した。そして、見舞った拓也に、姉はそのベッドの中から優しく話してきた。
「ねえ拓也、これあげるわ、憶えてる? あの花火の夜、欲しがってたでしょ」
葉子はそう言いながら、ピンク色のブローチを拓也に手渡した。