姉、そして妻と娘
弟が「お母さんから」と聞いて、不思議がっている。
それを察したのか、葉子は弟を諭すように言う。
「お母さんがね、言ってたの。これ、お父さんからもらったんだって。だから一番好きな人にあげるのよってね」
「ふうん、僕も欲しいなあ」
拓也は羨ましい。
「ダメ!」
姉の口調がきつい。
「いいなあ、お姉ちゃんは・・・・・・お母さんが好きだったんだから」
拓也は少し涙声で、そんな泣き言を言い出した。
「拓也は男の子でしょ、だから大きくなったら、一番好きな人に、何か良いプレゼントをあげなさいね」
姉の葉子は幼い弟を励ますように話すのだった。
「うん」
拓也はまるでわかったように一言だけ返す。
父と母を亡くした幼い二人の会話。そこには限りなく辛くて悲しいものがある。
しかし、そんな会話を、止めどもなく放たれてくる花火が覆い尽くしていく。
葉子と拓也、幼くして両親を不幸にも亡くしてしまった。
それでも歳月は流れていく。親切な叔父と叔母の世話になり、すくすくと育った。
だが葉子は、いつも母親代わりの気持ちで拓也を見つめ、そして接してきた。
そして、葉子は十八歳の時に決心する。
もうこれ以上、叔父と叔母のお世話にはなれないと。