姉、そして妻と娘
拓也は、しっかりと握りしめている一番好きな人への贈り物。
娘の舞奈から取り戻した可愛い薔薇のブローチ。
それにぎゅっと力を込めて、「もう絶対に、これは舞奈には渡さないぞ」、拓也はそう誓った。
もし舞奈がそれを持ってしまうと、姉葉子のように、亡くなった人達のことを過度に引きずりながら生きていく。そう思えてならないのだ。
舞奈は、もっともっと幸せになって欲しい。
そして将来、舞奈自身のために、もっと自由に生きて欲しい。
そのためには、舞奈の将来に、重くのしかかってくる過去の人達の呪縛からは解放してやりたい。
「お姉ちゃん、ごめんなさい、僕が全部、罰を受けるよ」
拓也は、花火で燃える夜空に向かってそう叫んだ。
そして、拓也は思い切り・・・・・・そう、力一杯に。
その珊瑚のブローチを、大きな川の流れに向かって放り投げた。
それは花火の閃光に反射し、キラキラと輝き、美しい放物線を描きながら宙を飛んでいった。
そして、特に劇的なことは何も起こらず、ゆったりと流れいく川面にポチャリと落ちた。
その後は、単に小さな波紋が広がっただけだった。
真夏の夜空では、赤や青の花火が弾け続けている。
そして、それらの華々しい光が川面に映し出されている。