姉、そして妻と娘
拓也はそれを受け取って、なぜかほっとする。
そして、その珊瑚のブローチをぎゅっと握りしめる。
妻の愛沙は、拓也の心の痛みを、また拓也が今何を思っているのかがわかるのか、優しい微笑みを送ってくれている。
夏の夜空の花火は、三人の頭上で、次から次へとどーんどーんと炸裂し止まらない。
珊瑚の薔薇のブローチ。
それは娘の舞奈まで渡ってしまっていたが、拓也はそれを取り戻した。そして今、それは手の中にある。
拓也は手の平をゆっくりと開き、それを花火の輝きの中で見てみる。
確かにその台座には、父が母に贈った言葉、「I love you.」 の文字がしっかりと刻まれている。
姉の葉子は、それをいつも励みにして、母代わりとなって拓也を一人前にしてくれた。
拓也はもう涙が出て止まらない。父と母、そして自分を愛してくれた姉。みんなの思いが、ひしひしと伝わってくる。
「パパ、どうしたの、泣いてるの?」
娘の舞奈が心配そうに聞いてきた。
「パパはね、舞奈が一番幸せになって欲しいんだよ」
拓也はそう答えた。
ずっとそばで、拓也と舞奈のやりとりを見ていた妻の愛沙。微笑みを一杯浮かべ、そして囁く。
「拓也・・・・・・もういいことにしましょう」
それはまるで、姉の葉子がそう言い聞かせてくれているように。
少なくとも拓也には、そう聞こえたのだった。