姉、そして妻と娘
可愛い珊瑚の薔薇のブローチ。
それは父から母へのプレゼント。
そして、それは母から姉へと渡り、姉が他界する前に、姉から拓也へと託された。
その時、姉の葉子は拓也に頼んだ。
「ねえ拓也、これね、拓也の一番好きな人にあげて」
拓也はその言葉通りに、妻の愛沙へと贈った。
そして今、それは妻から娘の舞奈へと渡ってしまっている。
その結果、拓也は、舞奈の中に小学四年生の姉の葉子がいるのを見てしまったのだ。
これは一体どういうことなのだろうか?
拓也は考えた。その珊瑚のブローチは、一番好きな人へと引き継がれてきた。確かにそれは意味あることかも知れない。
けれども、結局、姉はそれに縛られ過ぎたのではなかっただろうか。
そして、姉からそれを託されて、拓也はその縛りを解かないまま妻の愛沙に贈ってしまった。
そんな珊瑚のブローチ。
今、それは、拓也が最も愛する娘の舞奈の胸元に着けられている。