メアリー
あたしには全然その気は無かったから、引き合わされても何故かヒステリックな態度になってしまって。
相手の男性には悪いことをしたなって、今ではそう思ってる。
ママも最近は諦めたみたいだけど……。
健一さんは会社の夏休みをあたしの家族と別荘で過ごす為にやってきた。
パパの会社の若手のホープなのだそうだ。
カチっと分けた髪型が堅そうな印象を与えるけど、笑った顔がすごくステキだ。
あたしは初めて会った時から健一さんを気に入ってしまった。
整髪料のにおいだって、本当は苦手なのだけれどイヤじゃない。
もしかしたらパパにもそういう積もりがあったのかもなんて思ったりして。
☆ ☆ ☆
健一さんはあたしに追いつくと脱いだ革の靴を両手に持って、突然砂浜を走り出した。
なんだか分からないけどあたしも後からついて行った。
月の明かりで砂を蹴る健一さんの影がはっきりと見える。
波の音がやけに大きく聞えた。
声を出して笑いながら走る健一さんがあたしの名前を呼ぶ。
月の光がまた一段と明るくなった気がした――。
いつの間にかあたしと健一さんは走るのをやめて歩いていた。
波の上を渡ってくる風が心地よかった。
あたしの息が弾んでいるのに気付いたのか、健一さんは砂浜の上に腰を下ろした。
「あ~あ、気持ち良いなぁ」健一さんは大きく伸びをするとそのままバッタリと寝転がってしまった。
目を閉じた顔があんまりかわいく思えたので、あたしは大胆にも上から健一さんにキッスをしてしまった。