カナダの自然に魅せられて ~リスを探して10日間~ (1)
車の窓から外を眺めていると、また、町並みが変わってきた。
赤い屋根や緑の屋根、庭が広く、どことなく林の中の別荘のような佇まいだった。
どれが船長さんの家かなとキョロキョロしていると。美月が、
「先にビーチに連れて行ってくれるんだって」
と教えてくれた。
ほどなくして、ビーチに着いた。
道路沿いにはおしゃれな店やカフェが並ぶ。山が間近に迫っているため、おしゃれなリゾート風の家々が山の斜面に沿って階段状に並ぶ。
それらと道路を挟んで、細長い駐車場があった。
車を止めて、堤防に上がってみると、まず目に飛び込んだのが細く長く続く1本のレールだった。それから、目の前に穏やかで広い夏の海が広がっていた。
テトラポットが並べてあったので砂浜は見えなかった。砂浜はないのかなあ?
左手には岸からその海を横切るように続く長い長い桟橋が見えた。2・300メートルはありそうだ。
その先端には数艇のヨットが繋がれ、桟橋の向こうに砂浜がわずかに見える。
岸からその先端まで、海水がタップリあるというのにどうしてあんなに遠くにヨットを繋がないといけないんだろうと不思議だった。
桟橋より左手のずっとずっと先には、薄ぼんやりと町が見える。
「このレールはアメリカまで続いているんだって。」
「え~!!アメリカ!?」
「あそこに、ぼ~んやり見えるのは、もうアメリカだよ。」
「へえ~、アメリカがそんなに近くなんや!」
そこはもうアメリカ!そして、このレールはシアトルまで続いているのだと言う。
「う~ん、このレールを辿るとシアトルまで行けるのか…」
美月も以前、バスでシアトルへ行きマリナーズのイチローの試合を見たらしい。バンクーバーからシアトルまで、バスで2時間ぐらいで行けるとのことだ。
目の前の海は広々としてはるか向こうに水平線が見える。
『これは、もう太平洋なんだ!!なんと穏やかな太平洋!!』
と暢気に思っていた。
しかしそれは間違いだと気がついたのは帰国してからだった。
その時持っていたガイドブックにはホワイトロックと言う地名は載っていなかった。小さな町だった。
帰国して、詳しい地図で調べたら、ホワイトロックと言う町は、大陸とバンクーバー島にはさまれた複雑なリアス式海岸のずっと奥の奥に位置していた。
『あれは太平洋じゃなくて、内海だったのか…!目の前に島なんか全然見えなかったのに…』
瀬戸内の島で育った私は、目の前に本州か四国か小さな島が必ず見えた。見えないところは太平洋と言う感覚だったのだ。ここでもまた大陸の大きさと海の広さを知ったのだった。
目を足元のレールに移し、それに沿って歩くことにした。ゆっくり歩いて行くと昔の駅舎らしき建物が近づいてきた。
昔は乗客も多く利用していたようだが、今は貨物列車だけが通っているらしい。
作品名:カナダの自然に魅せられて ~リスを探して10日間~ (1) 作家名:ねむり姫