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茶房 クロッカス  その1

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「カラ~ン コロ~ン」
 店が笑いの渦中にある時、いきなりカウベルが鳴り、一人の男性が入って来た。
 その人は、目ざとくボックス席の二人を見付けると、
「いゃあ、恋歌さんにきりんさん、遅れてすまんことです。出がけに予定外の客人がありましてな、まぁ焦りましたわ。あ~はっはっは」
 二人に詫びながら挨拶をし、
「マスター、いつぞやはお邪魔しましたなぁ。コーヒーお願いしますよ。それとたこ焼き……は、ないんでしたな、はっはっは」と、笑いながら言った。
《おお! 思い出したぞ。この前あの嘘つきおばさんのことを教えてくれた芭蕉のような人だ。えっとー確か名前は、んーーと、思い出せない。でも……そうだ! 名刺をもらったんだった》
 俺は急いでレジ付近を探し、やっと見つけた名刺を見て思い出した。
《そうだ! 光さんだった。そうか、さっき二人が話していた殿っていうのはこの光さんのことだったのか……》妙に納得したのだった。

「ところで、今店に入って来た時、みんなして笑ってましたなあ。何を笑ってたんですか?」
「殿、聞いて、姐さんたらここをクロワッサンだと思うてたんよ。でも実際はクロッカスだった。だからてっきり店を間違えたのかと思うたんよ。ところが……くっくっくっ」 きりんちゃんが、さも面白そうに笑う。
「きりんちゃん、そんなに笑わへんでもええやないの」
 そう言うと恋歌さんは頬をプゥーっと膨らませた。
「ははぁ、さては恋歌さん、恋歌さんのお気に入りのパン屋さんをイメージしてたんでしょ? ははっ、こりゃ恋歌さんらしいわなぁ」
 三人の会話はどんどん盛り上がっていったので、俺は光さんの注文のコーヒーを出すと、しばらくは黙って傍観していた。
 三人は時々驚いたような奇声を発したり、大きな声で笑い合ったりしながら二時間以上も話していた。
 夕方になって店を出ようとした三人に、俺はちょっと聞いてみた。
「あのぅ、皆さんは何かのお仲間なんですか?」
 すると光さんが皆を代表するように、
「私たちは創作仲間なんですよ。こちらのお二人は今回観光がてら、創作の勉強のために京都方面からこちらに、わざわざおいでになったんですよ」
「はあー、そうなんですか……」
「マスター、どうも長居してしまってすいませんでした。でもまた寄せて下さいね」
 そう言って光さんが頭を下げると、他の二人も同じように頭を下げて、
「ごちそうさまでした」と口々に言った。
 俺はドアを開け、表まで出て、
「またいつでも寄って下さい。ありがとうございました」と言って見送った。
 その少しあと薫ちゃんは、勤務時間も終わり帰ってしまった。
 薫ちゃんの勤務時間は、午前十一時から午後六時までだったから。
 もう少ししたら閉店時間だ。そしたら花屋夫婦が来る。どういう風に話そうか……。俺の頭の中はそのことでいっぱいになっていた。