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茶房 クロッカス  その1

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「ねぇ恋姐さん、殿は遅いねぇ……。ほんまにここで間違いないの? お店、間違うてへん?」
《殿?……どっかの殿様でも来るんかいな?》
「いゃあ、ここでえぇと思うでぇ、だってここクロワッサンやろ?」
 と、言いながら店内をキョロキョロ見回す。
 二人をずっと観察してた俺と、バッチリ目が合ってしまった。
 彼女は俺の視線を捕らえて、
「なぁ~マスターはん、ここクロワッサンやおへんかぁ~?」
 と、ほんわりとした関西弁で尋ねた。
「あーすいません。ここクロワッサンじゃなくてクロッカスなんですけど……」
 別に俺が謝る筋合いじゃないんだけど、なぜか謝っていた。
 恋姐さんと呼ばれた人は、可愛い瞳をクリクリッと回すと、慌ててバックの中からごそごそとメモ用紙を取り出した。
「これやでぇ~」と、きりんちゃんに眼で合図すると、そのメモ用紙をじーっと見つめ、突然笑い出した。
「ひゃ~~はっはっはっ」
「ね、姐さんどないしたん? 急に……」
 不思議なものを見る眼できりんちゃんが尋ねると、
「あぁごめん、何でもないんや。自分で間違うてる思うたら、おかしゅうてなぁ~うふふ……」
 まだ笑いの領域から抜け出せない様子でそう言った。
「もぅ!! 姐さんたらっ。で、どないなん? 間違うてるん?」
 少々ムカつき加減できりんちゃんが聞いた。
「ええのよ、ここで。うちが勝手にクロッカスをクロワッサンと間違えて覚えてただけやねん! ――ほんまにうちって食い意地が張ってるなぁ~、そう思わへん? うちアホやなぁ~」
 そう言うとまた今度はケラケラと楽しそうに笑った。
 きりんちゃんも一緒になって笑い、俺もつられて笑ってしまった。
 見ると横で、薫ちゃんもくすくす笑っている。