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茶房 クロッカス  その1

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 薫ちゃんは一週間もすると、もう何年もいる人のように店に馴染んでいた。
 この順応性は若さゆえなのかも知れない。見ているとなんだか嬉しくなってしまう。
 ランチタイムのあとの時間は二人で賄い飯を食べ、俺はコーヒー、薫ちゃんは紅茶を飲みながら、色々世間話をして過ごした。
 それまでは《一人でのんびりが一番いいや》と思っていたけど、二人でいるのはもっと楽しいものなんだと、この歳になって初めて知った。
 昔の失恋以来、恋することにも何となく消極的になっていた。
 たまには、素敵だなぁと思う相手に出会わなくもないのだけど……早い話、縁がないのだ。
 薫ちゃんが来てからというもの、ふと気付くと、自分がもし結婚したら……などと考えている時があって、そんな自分に驚いたりした。

 ある日の午後、俺は店を薫ちゃんに任せて花屋へ行ってみた。
 礼子さんは接客中だったが、淳ちゃんの姿は見えない。きっと配達にでも出ているんだろう。
 花を見ながら少し待っていると、接客を終えた礼子さんが、
「悟郎さんどうしたの? こんな時間に……。お店は大丈夫なの?」
 と声をかけてくれた。
「ああ、実はアルバイトを入れたんだ」
 そう言って軽くウィンクした。
「あら!? そうなの? で、どんな子?」
 礼子さんが目を輝かせて俺を見つめた。
 黙っていると、どんどん質問責めにされそうな雰囲気だったので、
「いや、それよりもこの前の話。あれからどうした? 何か分かったのかぃ?」 
 と、聞いてみた。
「主人のこと? それなら、あの後、何だか妙に気まずくって……私も早く何とかしたいんだけど、でも面と向かって言うだけの勇気はなくて……」
「……そうか」
「悟郎さん、もしかして何か分かったの?」
 切実な瞳で礼子さんは俺をじっーと見つめた。
「うぅーん、そのことで二人に、是非とも話したいことがあるんだけど……確か閉店時間はうちと一緒だよねぇ?」
「えぇ」
「終わってからでも俺ん所に来てくれないかなぁ?」
「えぇ、分かったわ。そういうことなら店を閉めてから主人と二人でお邪魔するわ。ゴメンね、迷惑かけて」
 済まなそうに言う礼子さんに、
「いいんだよ、そんなこと。じゃあ待ってるから」
 そう言うと軽く手を上げて、俺は自分の店へと向かった。
 途中あのおばさんを偶然見かけた。
 どうやらまたあのデパートへ行った帰りらしく、右手にデパートの名前の入った紙袋を下げていた。
 また何かクレームでもつけて来たんだろうか?
 じっと見ていたら視線を感じたのか、おばさんがふっとこちらを向いたので慌てて目を反らすと、素知らぬ振りをして自分の店に向かって歩いた。