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茶房 クロッカス  その1

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 俺はしばし目を丸くしてその子を眺めた。
 その子はまるで臆することもなく、俺を見返している。ニコニコと……。
 一つ聞き忘れたことに気付いて「君、いくつ?」と聞くと、
「二十歳になりました」と答えた。
「ふぅーん」
 ――しばらく考えた末、
「じゃあ明日から来てくれる?」と言うと、
「えっ!? ホントですかぁ? やったー!」 
 と、その子は喜びの声を挙げたのだった。

 その後、勤務時間や給料のことなど一通りの話をして、彼女は嬉しそうにして帰って行った。
 彼女の名前は高木薫と言った。
 少し頼りなげな気もするが、その笑顔にはなぜか人を惹き付けるものがある。 
 接客には何と言っても笑顔が最も重要である。
 こんな俺だってそれだけはいつも心がけているんだから……。
 まぁそれ以外のことはボチボチ教えていけばいいや。そう思っていた。
 ところが豈(あに)図(はか)らんや、まぁビックリ! 彼女の良く働くことといったら……。
 ランチタイムの忙しい時でさえ、あの不思議に魅力的な笑顔を絶やすことなく、器用にお客さんの注文を聞き、俺に大きな声でオーダーを通すと、今度は俺が作った料理を次々と運んで行く。
 そのスムーズな動きには俺の方が舌を巻くくらいだ。
 当然ながら「いらっしゃ~い」や、「ありがとうございます」の挨拶だって文句なし。
 何度か来てくれているお客さんなんか、帰りがけに、
「マスター、いい子が入ったじゃない!!」 
 と、わざわざ声を掛けていってくれる人も、一人、二人じゃなかった。
 こんなことなら悩まずに、もっと早く募集しとけば良かったと少し後悔した。
 この分なら、昼の忙しい時間帯以外なら、少しぐらいは俺が店をあけても大丈夫だろう。
 まだ未解決なままの花屋夫婦のことが、俺は気になっていた。
 しかし、どう話したものか……。