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茶房 クロッカス  その1

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 その人がコーヒーに口を付けた所に、また一人女性客が入って来て、店の中をキョロキョロと見回すと、迷わずその男性客の席に行った。
 年の割に可愛い格好をした人だった。
「ゴメンね光ちゃん、待たせちゃって~」
《ふぅーん、光ちゃんて言うんだあの人》
 そう思いながら、さっき手渡された名刺を思い出して眺めた。
「いやいや大丈夫ですよ、ゆうかさん。今までマスターとおしゃべりしてましたから」
 そう言うと俺に目配せしてニコッと笑った。
「あら!? そうだったんですか? マスター」
 ゆうかと呼ばれた女性も俺の方を見て微笑み、
「私にもコーヒーをお願いねっ」と言った。
 俺は慌ててコーヒーの準備をしながら、にこやかに愛想をふり撒いた。
 用意したコーヒーを持って席に行くと、何やら原稿用紙のようなものを広げて、二人は何か話し合っているようだった。
 静かにコーヒーだけ置くとカウンターに戻り、さっきの名刺をもう一度じっくり見てみた。
 表面には名前が『光 幻視』、そして住所と電話番号が――裏を見てみるとそこには『古池や 蛙飛び込む 水の音』と俳句が書いてあった。
 さすがに教養のない俺だって、これがあの有名な松尾芭蕉の俳句だということくらいは分る。
《そうか、俺が最初にあの人を見た時に思った松尾芭蕉のイメージは間違ってなかったんだ。なるほど……》と自分の勘の良さに惚れぼれしたのだった。
 その後、二人の話の端々を聞いていると、どうやら俳句の勉強をしているようだった。
 もちろん先生役は光幻視という人で、生徒役がゆうかと呼ばれた人だった。
 窓の外がぼちぼち夕闇に近づきつつある頃、二人は、
「ご馳走様。また来ますねっ」そう言って帰って行った。