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茶房 クロッカス  その1

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「マスター、こちらの店は、一人でやってらっしゃるのかな?」
 突然声を掛けられた俺は、飛び上がりそうなほどびっくりした。
 《そうだ! 客がいたんだった……。はははっ》〔自虐的笑い〕
「――そうなんですよ。今ちょうどそのことで考えていた所だったんですよ」
「と言いますと……?」
「ええ、実はアルバイトでも募集しようかと……」
「あぁなるほど、そういうことですか? いい人が見つかると良いですなぁ」
「――それはそうとマスター、先ほど帰られた女性のお客さんは、こちらへよく来られるんですかな?」
「あぁ、さっきのお客さんですか?  あの方は今日初めて来られたんですよ。――あの方がどうかしましたか?」
「いやぁなに、大したことではないのですが、以前どこかで会ったような気がしたものでね。――あっはっはっはっ……」
 その人は突然豪快に笑った。
「…………」 
 俺が何も言わずにきょとんとしてると、
「いやぁ~これは失礼しました。ちょっと思い出しましてね」
 そう言うと、その人はまたアッハッハッハ……とひとしきり笑い、
「――いやぁ実はね、先日このすぐ近くのデパートへ行ったのですが、その時にね、むふっ――」
 笑いをこらえつつ続けた。
「――ある人が、女性でしたが、店員さんに大きな声で何やら文句を言ってるんですよ。まぁ最近多いクレーマーって奴でしょうね。だがその言い方が何とも品のない、思わず耳を背けたくなるような言い方でしてね。私は店員さんがあまりにも可哀想でしばらく様子を見ていたんですが、間もなく上司らしい人が来て、その人を裏の事務所の方に連れて行ったんですよ。で、私はその店員さんに『大変でしたね』と声を掛けたんですよ。
 そしたらその店員さんが『あの人はここでは有名なんですよ』と、声をひそめて言うんです。
 私は妙に興味をそそられて……、あっ! 申し遅れましたが、私は書き物と講演を生業にしてるものですから〔そう言って名刺を俺に差し出し〕、何かあるとすぐ興味が湧いて来るのです。悪い癖ですなぁー、わぁはっは! 」
 と楽しそうに笑い、ハッとしたように、
「えっとー、どこまで話ましたっけ?」と聞いた。
「あっ、店員さんに話を聞いたっていうところまでですが……」
「おぅ、そうでした――」そう言って手を打ち、続けて言った。
「――そしたらその店員さんが、『あの人は時々店に来ては、些細なことに難癖を付けるんです。それも延々と……。よっぽど暇で、相当鬱積したものを持っているんでしょうよ』と言うんですよ」
 そこまで言って一息ついた。
「はぁ、そうなんですか、そんな人なんですか……。実はさっき、散々旦那さんのことを愚痴って行かれましたよ」
「はぁ、じゃあ原因はそこからかも知れませんなぁ」
 したり顔で頷き、
「――で、コーヒーはまだですか?」と聞いた。 
《おおぉぉーーーーーー!! 》
 もちろん俺は、慌ててコーヒーを淹れて持って行ったのだった。