茶房 クロッカス その1
「えーーっ!! そんな……まさか? 冗談でしょ?」
「本当よ~、だって私が……あっ、じゃなくって、私の知り合いがホテルに入る所を見たって言ってたもの」
またしてもおばさんは嬉しそうにニヤッと笑った。
《そうか……このおばさんか!? ……犯人は……》
「そ、そうなんですか? で、何処のホテルに?」
「えっ!? そ、それは……その辺のホテルでしょ! きっと。そんなところまで聞かなかったわよ! 」
何だか焦った様子で答えた。
《やっぱり怪しいー》
「で、その知り合いの人って信用できるんですか?」
「もちろんよ! うちのご近所の人だし」
「………」
「あの人が嘘なんてつく筈ないわよ」
「でも俺には信じられないな~、あんなに仲がいいのに……」
「夫婦のことなんて所詮他人には分からないものよ。うちだって……」
俺が素早く最後の言葉尻を捕らえて、
「あれっ? お客さんとこも上手くいってないんですか?」と聞くと、
「マスター、ここだけの話よ」
そう言ったが最後、はあぁ……、思い出したくもない程の愚痴が、その後延々と続いたのだった。
俺は適当に相槌を打ちながらも、このおばさんが自分の憂さ晴らしのために、花屋夫婦の仲がいいのを妬んで嘘をついたと確信した。
《それにしても、よくもこんなにもこぼす愚痴があるもんだ。このままじゃ聞いてる俺のバケツの方が溢れちゃうよ。誰か客来ないかなぁー》
そこへカラ~ン コロ~ン
《おっ! 良かった。客だあ!》
飽和状態寸前!! (笑)
「いらっしゃ~い」
俺はやっとカウンターの中から脱出して、新しい客の座ったボックス席へお冷やを持って、急いで注文を聞きに行った。
「どうぞ!」
水のグラスを置きながら
「――ご注文は?」とニッコリ笑って言った。
作品名:茶房 クロッカス その1 作家名:ゆうか♪