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茶房 クロッカス  その1

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 それから二、三日後の午後のことだった。
 俺がいつもの『のんびりタイム』を過ごしていると、律儀なカウベルがカラ~ン コロ~ンと鳴って、初めて見る顔の女性が入って来た。
 俺は「いらっしゃ~い」と声を掛けると、カウンターの席を勧めた。
 ここだと、注文をもらった後の俺の動きが楽でいいんだ。
 その人は年齢六十歳前後のちょっと小肥りのおばさんで、やけに年に似合わない派手なメガネを掛けていて、手には買って来たばかりのような花束を持っていた。
「あぁ、花は隣の椅子にどうぞ~」と俺が言うと、
「どうも――あの、紅茶をお願いします。あぁ疲れた~」
 と、おばさんは言いながら、いかにも『どっこらしょ』と言う感じで椅子に座った。
「わかりました。――何処かにお出掛けだったんですか? お疲れの様ですね」
 そう声を掛けると、
「そうなのよ。今日はここから一時間程の親戚に用があってねぇ、たまに出掛けると疲れるわねぇ」 
 と言うと、口をすぼめて笑った。
「ほほほほ……」 
 何だかその笑い方に、俺はプライドの高さを感じた。
 紅茶のカップをおばさんの前に「お待たせ~」と言って置くと、カップを持ってズズズズ~ッと音を立て、すするように飲んだ。
《うーん、音を立てて飲むのかぁ……。はっきり言って俺はこういう飲み方をする人間はあんまり好きになれない。そうは言っても客だしなぁ》
 そんなことを内心考えながらも、気分を変えようと思い、
「綺麗な花ですね」と言ってみた。
「そぅお? すぐそこの花屋さんで買って来たのよ。あそこの店はいつも新しい花が置いてあるから良いのよねぇ」
 と、おばさんが言い、
「あ、俺もあの店使ってるんですよ。あそこは旦那さんと奥さんも仲がいいし――雰囲気いいですよねっ! 」
 そう言うと、
「あら、マスター知らないのね」
 おばさんはそう言って、ふふふと鼻で笑った。
「えっ!? 知らないって何をですか?」驚いてそう聞くと、
「あのね、大きい声じゃ言えないけどね――」
 《十分大きい声ですが?》
「――あの二人、両方とも浮気してるのよ! 」
 おばさんは嬉しそうにそう言うと、くっくっくっと笑った。