茶房 クロッカス その1
今日は何という日だったんだろう。重さんといい、礼子さんのことといい。
俺は自宅に帰ってテレビを見ながらも、頭の中は二人のことでいっぱいだった。
――それからしばらく、重さんが店に来ない。
普段なら、『仕事の帰りには必ず』と言っても過言ではないくらいに来るのに。
俺は心配になって重さんのアパートに様子を見に行った。
アパートのドアをノックしても返事がない。
もう夜だから、仕事からはとっくに帰って来てるはずなのに……。
俺は不安を覚えて、裏に回ってみた。
サッシの扉の内側にはカーテンが閉まっていたけど、その隙間から辛うじて部屋の様子が見え、俺は息を飲んだ。
部屋と部屋の境目の横に渡った柱に、何やらロープ状のものが下がっており、その下には重さんの身体が揺れていた。
「わぁーーーあ!!」
俺は叫んだ。
自分の叫び声に目が覚めると、体中が汗びっしょりになっていた。
「ああ~~ 夢だったのか……」
声に出して言ってしまい、大きく息をついた。
よく考えたら、俺は重さんの家が何処にあるのか知らないんだった。
《ああ、夢で良かったぁー》
俺はホッとして起き上がると、台所へ行き水を飲んだ。
やけに喉が渇いていた。
誰かの喋る声が聞こえてふと見ると、テレビが何やら勝手にしゃべっていた。どうやらテレビを付けたままで寝てしまっていたらしい。
嫌な夢を見てしまった。
俺はテレビを消すと、早く何とかしなくちゃなぁと勝手に思いながら、布団に入って改めて眠りについた。
作品名:茶房 クロッカス その1 作家名:ゆうか♪