ザ・ファイナリスト
男は緊張して萎縮したのかもしれない。
最後に男は自分の握り締めた震える拳を、信じられないものを見るように見ながら地面に沈んでいった。
と、突然私にスポットライトが当たった。
あいつらが迎えに来た事を私は悟った。
思えば、私は最初からあいつらの存在には気づいていたのかも知れない。
時々頭の中に入り込む勝敗を決した時の歓声、命令するような囁き。
そして私はあいつらの用意したポッドに乗せられた。
ファイナリスト達は大きなドームに集められていた。
私が来る前にも幾度と無く対戦があったのだろう。
ドームに入ったときもそこに居る半数が消え様としているところだった。
恋人さえもこの手で消した私は驚くほど冷静だった。
心が凍り付いていたと言っても良いだろう。
むしろ全てを消してしまいたいとさえ思っていたのかもしれない――。
様々な人種と対戦した。
年齢や性別も様々だった。
中でも一番手強かったのは一目でゲイとわかる黒人の男だった。
何を考えているのか、或いは何かを考えているのかさえ表情からは読み取れなかった。
もしかするとこの戦いが始まる前は、ノーマルな男として世間を欺き続けていたのかもしれない。
ようやく倒した時に、ふとそんな事を思った。
そんな私は最期の女性と対峙した。
どこかで見た顔は最近売れているアメリカの映画女優だった。
魅惑の表情は大抵の男を惑わせたのだろうが、今の私には効く筈も無い。
何しろ私はこの世で一番うつくしいものをこの手で消し去った男なのだ。