ザ・ファイナリスト
ここが自分達の働くオフィスで、平日の昼間だという事など全く気にならなかった。
その後、手を握り合ったまま、しばらく見つめ合っていたが、ヨーコの熱い眼差しはさらに熱を帯びて来た様だった。
そして私も突き上げるような衝動に全身が熱くなるのを感じていた。
「おねがい……」
「ヨーコ……」
私達はもう一度長いキスをして、ゆっくりとじゃんけんのモーションに入った――。
私は会社のビルから外に出た。
ヨーコは最期に私の頬に手をあてて「ありがとう」と言って消えて行った。
その頬は泪で濡れていたが、これまでに見たことも無いほどに優しく哀しく美しい笑顔だった。
一方、ビルを出たときの私は、やりきれない怒りに煮え返り、きっと悪鬼の形相だったに違いない。
ただ幸いにも誰にもその時の顔を見られる事は無かった。
もう殆ど街にはヒトなど居なかったのだ。
それから私はエンジンが掛けっぱなしになっている高級なスポーツタイプの自動車を手に入れ、ガソリンスタンドで燃料を満タンにし、ついでにその辺に転がっていたポリタンク数個にガソリンを充填させ車のトランクに放り込んだ。
小さ目のトランクはそれで一杯になってしまい、あとは2+2の後部座席か助手席に荷物を置くしかない。
もっともドライヴァーズシート以外には誰も乗る事は無いだろう。
どこへ行くべきかは車のステアリングが教えてくれた。
とにかく走っていった方向にヒトは居た。
向こうからやって来る事も多かった。
思い思いの車や単車に乗って……。
はたと思い付き東北まで車を走らせた事も有った。
どうやら小学生らしい少女は自転車くらいしか長距離を移動する手段を持たなかったのだろう。