ザ・ファイナリスト
私は急いで二人に割って入り社長に対決を挑んだ。
社長は凶暴な表情に変わり、私を睨み付けた。
「貴様はここの社員か? どこのどいつだ?このワシに逆らってこの先、どうなるか分かっておるのだろうな? 第一この時間では明らかに遅刻だぞ!」
何を考えているのだ? 冷静に考えたら、先の事など構っている場合ではないのは明らかだ。
とは思いつつ、動揺したのか、私は自分の所属・姓名・会社での認識番号まで名乗ってしまった。
社長はこの方法でここまで勝ち進んできたのかも知れない……。
そしてわざとゆっくり時間をとってじゃんけんの体勢に入った。
(大勢居る場所ではこのゆっくりは有効だ、気の短い奴らはこの間に二~三回は勝負を行ない、消えていったのだろう……さすがに老獪であった)
だが私をこれまでの相手と同じにしてもらっては困る。
元々模範的な社員ではないし、ここに至るまでに充分過ぎるくらい様々な事を経験してきたのだ。
「じゃんけんぽいっ!!」
「じっけったあっ!」
社長は私の襟を掴みあげ、気味の悪い笑いを浮かべた。
が次の瞬間社長の力はふっと抜け、ずぶずぶとオフィスの床に沈んで行った。
恐らくこの二十階のフロアを一階づつ突き抜けて落ちて行くのだろう、私に掴みかかった醜い表情のままで……。
振りかえるとヨーコが熱い眼差しで私を見つめていた。
私は片手を上げたヨーコに一気に近付き、抱きしめた。
「逢いたかった、怖かった、みんながみんなを消していったの……。私も何人か……」
「もう何も言わなくて良いよ」
ヨーコは震えていた。
私は一旦、きつく抱きしめ、そしてこれまでヨーコと付き合って来た内で一番長いキスをした。