ザ・ファイナリスト
どうしたのか?負けた相手の男はみるみる恐怖の表情に身を凍らせ叫び声を――。
上げなかった。
消えてしまったのだ。
その瞬間、男は半透明のザラザラした姿に変わり、そのままのカタチを保ちつつ地面に沈んでいったのだ、まるで安物のTVゲームの化け物が倒された後の様に。
そして私の頭の中で勝利のファンファーレが鳴り響いた、気がした。
気がつくとさっきまで人でごった返していたホームの人ごみは半分ほどになっていた。
私は休む間もなく次の相手を探した。
駅から出る間に何人の人間を消したのだろう。
泣きながら挑んでくる若い女性、諦め切った様な老人、ギラギラした怒りを剥き出しにした中年男――いつしか私は人を消し去る快感に酔い痴れる様になっていた。
とにかく私は駅を生きて出る事に成功したのだった。
駅を出ると人影は無く、いつもはごった返すオフィス街の駅は休日の様に閑散としていた。
ここら辺の勝利者は次の相手を求めて場所を移動したのだろうか?
それでも会社の方へ歩いて行ったが、或る光景を目にして思わず私は姿を隠した。
(何故かこんな時でも会社へ行って仕事をしようと思っていたのだ)
ベビーカーに片手を掛けた母親らしき女性と、かなりの年配の男がオフィス街には珍しい園庭付きの託児所の前で睨み合っていたのだ。
男が園庭に身体半分入っているところを見ると、託児所の関係者か園長といったところなのだろう。
私はじゃんけんをしたい衝動と戦いながら様子をうかがった。
男は何やら大声で母親を叱責あるいは威嚇していたが結局一度あいこになった後、地面に沈んで行った。
最悪だ!子供を持った母親を消さなければならないなんて、自分に出来る筈は無いと思っていた。