神々と悪魔の宴 ⑧<汚れなき神の気まぐれ>
夏も終わりに近いある日の夕暮れ時。
子供は夏休みの宿題である、観察日記の仕上げを行っていたのである。
呼ばれた父親は機嫌の良さそうな顔で子供のいる部屋に入ってきた。
「ん、そんなに面白いか、パソコンは? お父さんが子供の頃にはRPGとか格闘ゲームなんてのが流行ってたんだがなぁ」
父親は風呂上りのビールをグイと飲んだ。
「うん、今すごくいい所。買ってきたままじゃ面白くないからちょっと改造してみたんだ。先生が色々試してみると良いって言ってたし、友達のお兄ちゃんがすごく良い環境刺激データをくれたんだ」
「へぇそうか。どれどれ」
画面の中では3Dの広大な空間の中で幾つもの銀河が発達し、或いは衰退して行く様が実際の宇宙の何億倍ものスピードで営まれていた。しかもそれはビデオ映像が早回しされるような見難いものではなく、ギリギリのスピードでダイナミックな宇宙の動きを再現しつつ、バックグラウンドでは起こりうる変化を忠実に再現しているのであった。
そして時折、ユーザーが見るべきイベントを検出すると、ひとつの銀河をクローズアップして行き、特定の恒星の変化や或る太陽系の惑星における生物の発生などを細かく見せてくれるのである。
もちろん始めからここと決めた恒星系、或いは惑星を別途モニターし続ける事も可能である。
放って置いてもそこそこの成長は見込めるが、適切な小宇宙に環境刺激データを与えてやると、劇的な変化を即す事ができる。上手くすれば知的生物が発生して、自ら宇宙探査に出かける、といった事も充分観察可能なのである。
つまりこのソフトウェアはパソコンの中に現実と何ら変わりが無い宇宙を創造する事が可能なのであった。
父親は夏休みに入って程なくした頃に見た子供の宿題を思い出していた。
そこでは生まれたての渦状銀河の壮大なスペクタクルが繰り広げられていた。
互いの距離が近すぎる銀河が交錯し合い、大爆発をおこすもの、引きちぎられるもの、混ざり合うものが、いびつに入り乱れ激しい嵐を巻き起こしているようだった。
「あーあ、あれではもし原始生物が発生していてもとてもじゃないけど進化なんかできないね」
作品名:神々と悪魔の宴 ⑧<汚れなき神の気まぐれ> 作家名:郷田三郎(G3)