日出づる国 続編
東国へ
倶留尊山は西側にはススキの高原が広がっているが、東側は断崖絶壁が続いている。
稜線沿いにいくつもの山を越えると、鈴鹿峠に出る。
ここには柵が設けられ、北陸と東海道と伊勢との通行が監視されているが、通行する人は少ない。
常時ふたりの下級役人が詰めており、暇を持て余していた。
赤い犬が柵門の前で咥えていた雉を離し、後ろ脚で耳の後ろを懸命にかきだした。
それを見た役人のひとりが、相方をつつく。
うなずき合ったかと思うと、ふたりで犬を追い払い、雉を拾い上げて竈の火をおこしにかかった。
雉肉は非常においしくて、下級役人にとっては高級品である。
羽毛をむしって遠火であぶった。
ふたりはワクワクして焼き上がるのをじっと見やっていた。
香ばしい匂いが唾液を集めてくる。そして・・・急に眠気が襲い、そのまま寝入ってしまったのである。
夢兎が捕らえた雉の腹に、嘉香が調合した眠り薬を仕込んでいた。それをアカに運ばせたのだ。
「アカは、やくしゃやなあ」
陽は感心することしきり。
3人と2匹の犬は柵を難なく越えることができた。
陸路は山が多いが、大きな川も多い。
木を組んで蔦で繋げたいかだは、探せば見つかるものだ。
一般人の往来は少ないが、商人にとっては、遠国と大和を行き来することは大きな富をもたらす。
初めての貨幣である富本銭が流通し始めた頃ではあるが、物々交換が主流であった。
東国は貴重な鉄の生産地であり、金属や金、翡翠の価値は高かった。