日出づる国 続編
●土地神と四天王の闘い
犬神は禍々しい4つの雲を睨み据えていた。それらは今までに感じたことのない気配を有していた。
グルルウウウフウウウゥ
と威嚇すると、雲は4つの姿をなした。
《何者だ!》
《仏に仕え、天を守る者! 仏敵を征伐する!》
《仏? 聞いたこともないわ。我らは古より人に崇拝され、彼らを守ってきた。災厄をもたらすものは排除せねばならぬ。いくぞ!》
《おっと、待っておくれ、私と広目天は闘うつもりはないよ。ただこのあたりを見ておきたくて来ただけだから》
《お前たちは大和国の神なのか!?》
《グプタ朝(インド)、隋(中国)の神だ。この倭国をも治める為に来た。倭国には様々な神が存在していてややこしいのぅ。大和王権は神祇を行う一方で仏法をも求めておる。それで大和の神は、おとなしく我らを受け入れた。この地には別種の神がいるようだが、我らに手向かうのであれば、成敗する》
《それぞれの土地にはそれぞれの神がおり、それらの神は人々と共にある。それは、厳しい自然の中で生きるための知恵、拠り所でもある。それを侵すものとは闘わねばならぬ。さあ! 今度こそいくぞ!》
持国天は刀を振り下ろした。
犬神はそれを避け、持国天に向かって跳び上がり、喉笛に食らいつこうとしたが甲冑が邪魔をして、顔を引っ掻いただけである。
弱点部を覆った甲冑。
そのつなぎ目を狙って甲冑を引きはがそうとしたが、増長天が戟で突いてきた。
蛇神が、増長天の足から胴、左手そして戟に巻き付きギューッと締めつける。
増長天の怒りを含んだまなじりがつり上がり、息を吐き出して体躯を縮めるとするりと上に跳び出し、蛇神の眼を狙って突いた。
犬神が増長天の手首に食らいつきしっかりと咥える。
ヌゥオオオーゥ
持国天が刀を横になぎ払うと、蛇神と犬神はすかさず跳ねのき、間合いを取って睨みあった。
双方の形相はすさまじい。
小鬼たちは、地にあってうろうろするばかりである。
広目天はそれらの図を、巻き物に描き付けていた。
その時、土地神と四天王との間に雷光が走り、地を揺るがすほどの大音響がした。
《何をしておるか!》
そこに現れたのは・・・ふくよかな顔をにこにことさせた大国主命。
大国主命の本体は雷神である。
《持国天、増長天、それと広目天! そなたらはワシの配下であろうが。蛇神はワシの分身である。仲間内で何を争っておるか!》
にこにこ顔なので迫力には欠けるが、四天王も土地神たちも驚いた。
《姿かたちが異なっております》
《それは人間が想像して作ったのよ。この地の民は、厳しい自然と共に生きるために、心の拠り所を身近な形で求めているのだ。それが蛇であり、犬であり、馬であり、猿である。四天王、人間のくだらん欲望に手を貸すな。権勢欲や物欲の為に殺し合いをして何とする。ほっとけ、ほっとけ 仏じゃ、ワハハハ》