日出づる国 続編
●四天王
厚く垂れ込めた雲間から2つの眼が姿を現した。
しばらくすると、重厚な響きの声が後方から発せられた。
《広目天、なにか見えたか》
《まだ見えはしない。持国天、そうあせるな》
《そうは言うが、腕がウズウズ鳴ってるわい》
《増長天はそんなに戦闘が好きなのか? 私はただ付き合ってるだけだからね。皆と同じ恰好はしているけど、戦は嫌いだよ》
《ああ、多聞天、そなたが民の声を聞きつけて、行ってみよう、と言い出したのだろ》
《戦勝祈願のことだね。ちょっと興味が湧いてね。この倭国に来て、まだ分からないことだらけ。我々四天王の為の建屋まで用意してもらい、仏法を広めていかねばならないしね》
《そうだ。せっかくだから、彼らのいう東国を見ておきたいのさ》
《仏敵がおれば、殺ってしまおう!》
《ぉおう、実体のないもののけが集まっておるわい》
千里眼を持つ広目天は、持ち物である巻物に、筆でなにやら描きだした。
実体のないもののけ。それは犬であり、蛇であり、木のようなものであり、その他小さな鬼のようなものが数多く・・・
《邪鬼は払わねばならぬ》
広目天が描き出した姿を見て、持国天は右手に持つ刀を、増長天は左手に持つ戟(ほこのようなもの)を振り上げて、腰に手を当てた。
多聞天の持ち物は宝塔である。仏敵を打ちすえる護身の棍棒を持つが戦意はない。
ただ、四天王は同じ革製の甲冑を付けている。
広目天も戦意はない。記録するだけである。
《戦いは持国天と増長天に任せたからね》