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それぞれの季節

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県道にて (1978年5月)



全開にした窓からは、春の柔らかな日差しと、そよ風が流れ込んでいた。
咥えたばこで、左手でステアリングを握っていた男は、そこから離した左手を伸ばし、ダッシュボードに放り込んであったサングラスを取り出し、顔にかけた。

「天気が良すぎるんだよ。」

男は誰にともなく独り言を言う。
22~3歳の、ちょっと彫りの深い横顔の男だった。
男はもう一度左手をステアリングの上に乱暴に載せ、窓枠に肘をかけたままの右手の手首を捻ってたばこをつまみ、灰を窓から落とした。
そして、短くなったたばこを口の端に咥えた。
煙が目にしみたのか、眉をしかめる。

道路はひどく渋滞していた。
もう流れが止まってから30分が過ぎようとしていた。
時々思い出したように、のろのろと数メートル動いてはまた止まる。
さっきからその繰り返しだった。
30分経って、わずか数百メートルしか車は進んでいなかった。

車内にはエアロスミスが、カーステレオのマキシマムに近い音量で響いていた。
同様に渋滞している対向車線に停車している車のドライバーは、一様に顔をしかめ、窓を閉じ、それでも否応なく耳に飛び込んでくる音に閉口し、男を睨みつけてくる。
しかし男は、そんなことは意識の外に追い払われているようで、革巻きのステアリングを、上に載せた左手の指でコツコツと叩いたりしている。

やがて、車の列が僅かずつ動き出した。
男はたばこを窓の外に放り捨てると、ギアをローに入れ、サイドブレーキを戻し、クラッチを繋いで走りだした。
しかし、半クラッチのままほんの10メートルも進まないうちに、再び車の流れは止まり、男も車を停車させた。
作品名:それぞれの季節 作家名:sirius2014