それぞれの季節
店内は、若いカップルの語り合う声や笑いさんざめく声に満ちている。
その向こう側に、静かなフォークソングが流れているのが聞き取れる。
聞く人の心に徐々に浸透して行くような澄んだメロディも、少女にはまだるっこしいものに感じられた。
これは、以前には絶対に無いことだった。
「なによ、あんなやつ。」
少女は再びつぶやく。
少女はしばらく彼と逢っていなかった。
それは、試験のためだった。
少女自身もそうだったが、彼の期末試験が近付いたため、少女はしばらく遠慮していたのだ。
そんなある日、少女は電車の窓から、彼が別の少女と話しながら歩いているのを見た。
そして、初めてその頃の彼の態度がおかしかったことに気付いたのだった。
そのときから2週間後ほど前以来、彼の態度が妙によそよそしくなったのを、少女はそれまで気付かなかったのだ。
それは、少女の意識状況の反映だったのだろう。
その後、もう一度少女は駅で、彼がその少女と夢中で話しているのを見かけた。
二人は楽しそうだった。
少女の目には、それが以前の、自分と彼との姿にだぶって見えた。
少女はその場から足早に立ち去った。
その後ろ姿を彼は見たようだった。
その夜、少女は彼に電話をかけた。
そこで二人は別れたのだった。
少女は駅から立ち去った後も、電話を切った後も、不思議と涙は出て来なかった。
半年もつき合った彼との別れが、たった5分足らずの、それも電話などという手段で済んでしまったあっけなさに、おかしみすら感じた。
しかし、それでも一人で部屋に閉じこもってみると、虚脱感が全身を覆い、勉強などとうていする気になれなかった。
それが、昨日のことだった。
少女はカップを持ち上げレモンティーを一口飲むと、カップをソーサに戻した。
そして、なぜか突然店のドアを押し開けて、彼が入って来るような気がした。
入って来た彼は自分の正面に腰を下ろし、カフェオレを注文する・・・・
少女はあわててその空想を打ち消した。
彼とはもうきっぱりと別れたのだ・・・・・。
「そうよ、悪いのはあいつじゃない。」
少女はつぶやく。
作品名:それぞれの季節 作家名:sirius2014