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それぞれの季節

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レモンティーを飲む少女 (1978年9月)



少女は目の前のティーカップを持ち上げると、ゆっくりと口に運び、中の赤く透き通った液体を少しだけ口に含んだ。
そして、再びゆっくりとカップをソーサに戻し、つぶやく。

「ふん、なによ、あんなやつ。」

そして少女は自分の左に目を移した。
通りに面した青いガラスを通して、大勢の若者が行き交うのが見える。
少女は、それらの若者の群れをぼんやりと見ている。
少女はさらに、その中の、封切中の映画のプログラムを持った一組の男女を見つめた。

先月までは、少女も彼とよく映画を見に行ったものだった。
映画を見た後は、必ずこの喫茶店に入り、通りに面したこの席に向かい合って座り、彼はカフェオレを、少女はレモンティーを飲みながら、見て来た映画の話をするのが習慣だった。

少女は、ぬるくなったレモンティーを、もう一口飲んだ。
かなり前からこの店に居るにもかかわらず、カップの中にはまだ半分以上の透き通った液体が残っている。
少女はカップをソーサに戻すと、店内を見回した。
休日とあって、あまり広いとは言えない店は、ほぼ満卓だった。
その客の多くは若いカップルだった。
二人で来ていたときには気付かなかったのに、と、少女は一寸滑稽さを感じたが、そぐにその滑稽さは、自分自身の反映だと気付き、あわててそれを打ち消した。

少女はもう一度、レモンティーを口にした。
以前はおいしく感じられた、その舌を刺激する酸っぱさも、なぜか今は苦いだけだった。
そして、その苦さは砂に落とした水滴のように、みるみるうちに少女の体全体に沁み通って行く。

作品名:それぞれの季節 作家名:sirius2014