それぞれの季節
夏の終わり
夏が終わりを告げるとともに、まるで一つの泡のように消えてしまう女がいる。
君もそんな女の一人だった。
君はいつも、ちょっと虚無的な顔をして、言ったっけ。
現代においては、夢を持って生きて行くのは、大きな十字架を背負って生きて行くようなもんだと。
確かにそうかも知れない。
だけど人は、重い十字架を背負って、それをどこかに運ぶんだという目的があるからこそ、一歩一歩歩いて行けるもんなんじゃないだろうか。
十字架を捨てちまえば、身軽にはなるだろうけれど、何のために歩くのかわからなくなってしまう。
だから俺は、そいつが自分がやがて縛り付けられる十字架と分かっていても、背負い続けていたいんだ。
真夜中の新宿御苑で、二人でずっとそんなことを話したっけ。
ここがあの新宿の一角だと思えないほどの静かな木陰で。
そこで朝日を見た次の日、君は消えてしまった。
夏は全てのものを一気に燃え上がらせ、そして燃やし尽くしてしまう。
俺と君も、あの短い夏の間に燃焼し尽くしてしまったんだろうか。
俺は一人、新宿御苑のあの木陰で膝を抱えて思う。
秋の気配に過ぎ去った過去を振り返ってみても、そこに見えるのは、ただ自分の足跡だけだ・・・・・・・と。
作品名:それぞれの季節 作家名:sirius2014