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それぞれの季節

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日曜・新宿・午後3時



君は夜の浜辺に立ったことがあるだろうか。
波打ち際に立って水平線を見つめる。
空と海の色は同じになって見分けがつかない。
何で空と海を見分けるかと言えば、月の光が反射してキラキラ輝くのが水面なんだ。
(宝石箱をひっくり返した、とまでは言えないが、これでなかなか慎ましくていいもんさ。)
足元に目をやると、寄せては返す波。
突然大きな波が来て、足を濡らしたりする。
もう一度そんな波が来ないかと、ずっと波を見つめていても、二度とそんな波は来ない。
もどかしいほどに、波は足に届かない。
しかし、自分から海に近寄って、波に足を浸そうという気も起きない。

君とこうして向かい合って座っていると、僕はしばしばそんな気持ちに襲われる。
たった今、突然君の言葉が僕の心に触れる。
それは、思いもよらない方向からやって来る。
だが、もう一度君の言葉を待っていても、二度とそんな言葉はやって来ない。
君は元のおしゃべり人形。
虚ろな話題をまき散らすだけの。

やがて、話題はぷつりと途切れる。
ちょうど電池が切れたみたいに。
二人は必死に言葉を捜す。
黙っていてもただそれだけで確かめあえる、それほどの仲ではない。
言葉によってしか、お互いの存在を確認できない。
言葉だけが二人の仲介者。
言葉の上に乗ったつきあい。
それが二人の仲。
言葉を捜し続ける二人の思考は、テーブルをはさんで向かい合う二人の間の空間を彷徨い続ける。
そんなとき、君はやたらと水を飲み、僕はやたらとたばこをふかす。

やがて、僕は覚悟を決めてたばこを灰皿でもみ消し、伝票を持って立ち上がる。
「そろそろ行こう。」
そう言うだけで十分なんだ。
君は黙ったままついて来る。
そして、あてもないまま二人で、再びあの街の雑踏の中へ、溶け込んで行くんだ・・・・・

作品名:それぞれの季節 作家名:sirius2014