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それぞれの季節

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夏の少女



道を歩いていて、ふと空を見上げたら、いつの間にか夏は過ぎていた。
ポケットの中にはくしゃくしゃのタバコが一本。
ちぇっと舌打ちして火を点ける。
「夏の終わりか・・・」
空に向けてふっと煙を吐き出した。
そのとき
「あら。」
すれ違った少女が声をかけた。
俺は振り返って少女を見た。
一瞬、眩しさに目の前に手をかざした、

少女はまるで妖精のようだった。
透き通るような肌、純白のワンピース、長い髪に純白の髪飾り。
そして、腕には真っ白な花束を大事そうに抱えている。
「こんな所で逢うなんて、なんということかしら。」
少女は嬉しそうに微笑んだ。
 ―― 誰だったかな・・・・
「あのときはどうもありがとう。」
 ―― あのときって・・・・・
「わたし、とても楽しかったの。」
少女は少し淋しげな表情をした。
「あのう・・・はい、これ・・・」
少女は腕に抱えた花束から純白の一輪を引き抜いて差し出した。
俺は黙ったまま花を受け取り、しばらくそれを見つめた。
その花も不思議に美しかった。
そして俺は ―― 何故か淋しかった ――
でも俺は、ようやく、そう、ようやくにっこりと微笑んで言った。
「うん、俺もとても楽し・・・かっ・・・・」
 ―― 少女はいなかった。

煙草が半分灰になってジジッと燃えている。
静かだ。
「俺は ――」
気が付くと、周りの人が俺を見ている。
俺は短くなった煙草をくわえ、歩きだした。
ちょっと立ち止まって空を見上げる。
抜けるように青い空だった。
「夏の終わりか ――」
空へ向けて煙を吐くと、煙はゆらゆら揺れてもつれ、形を変えながら空の彼方へ消えて行った。
俺はふと笑って、純白の花を胸ポケットに差し、ゆっくりと歩き出した。

作品名:それぞれの季節 作家名:sirius2014