神々と悪魔の宴 ④<野球の神様>
Z学園の投手P君は一五〇kmを軽く超えようというボールで一・二番の打者を三球三振に切って取った。
そして今大会でも屈指の好打者、予選大会で打率六割を誇る三番打者には、一六〇kmにも迫ろうという全力投球を、その顔めがけて投げ込む。
地区予選のZ学園を知らない殆どの観客や相手校メンバーは恐ろしい瞬間を想像して凍りつく。
しかし、その予想をあざ笑うかのように、又、Z学園応援団の想像したとおりに、剛速球の軌跡は強烈な弧を描いてキャッチャーミットへ吸い込まれていった。
言うまでも無くこれが八咫鏡の真のチカラである。
一回の表を三者三球三振で終わらせたZ学園ナインの先頭打者は意気揚揚とバッターボックスに入った。
目には見えないが、まるで扇の様な打面を持つバットである、ストライクゾーンにボールが来る限り、空振りなぞは有り得なかった。
そして一本のバットを皆で使い、打者一巡して六得点、再び先頭打者の打席で悲劇は起こった。
何と、相手の好投手が投げる一五〇km近い速球に思い切り振り出したあのバットが粉々に砕けてしまったのだ。
そしてその時、勾玉のボールでキャッチボールをしていた、P君の球は大きく逸れて甲子園球場の青い空にすっ飛んでいってしまったのである。
慌てて普通のバットを取り出したが、元々大したチームでもないZ学園ナインでは、その後快音を響かせる事は出来なかった――。
投げてはP君の剛速球にミットが破けてしまうと言うハプニングが起きた。
以後あの悪魔のような変化球は出なくなり、あまつさえ唯一の本物(と言っても直に普通に戻るのであろうが)であるP君の剛速球はキャッチャーのC君が捕球出来ないため封印されてしまった。
作品名:神々と悪魔の宴 ④<野球の神様> 作家名:郷田三郎(G3)