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てっしゅう
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「不思議な夏」 最終章

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「ありがとう・・・お互いにね。頑張りましょう。貴雄さん、私の気持ちを汲んでくれてありがとう。あなたは素敵な方ね。志野ちゃんも怒ってなんかいないわよ。もう悩む事はしないで、小百合さんをしっかり守って頂戴ね」
「先生・・・ありがとうございます。お礼を言うのはこちらの方です。先生がいなかったらどうなっていたのかと、そう考えると感謝に絶えません。素敵な赤ちゃんを産んでくださいね、ボクからも祈っています」
「あら、殊勝な返事ね・・・それだけ大人になったっていう事ね」
「先生、冷やかさないで下さいよ」
「ううん、冷やかしてなんかいないわ。本当にそう感じたから。小百合さんのこと女性として大切にしてあげてね。年齢なんか今の二人には問題になることじゃないのよ。それと、浮気はダメよ。特にお腹が大きくなってきたら男の人って我慢できなくなるらしいから・・・」
「先生、そんな心配まで要りませんよ。何が我慢できなくなるんですか?」
「それを聞くの?ねえ、小百合さん」

小百合は笑っていた。この二人は本当に気が許せる関係なんだと改めて感じた。
「貴雄さんが私の所へ戻ってきてくれるのなら他の女性を抱いても構いませんよ。我慢出来ないなら仕方ないですもの」
「小百合さん、志野ちゃんと同じ事を言わないの!もう、そんなんだから男の人が付け上がるのよ!許しちゃダメ」

志野がかつて理香に対して言った言葉と同じ事を小百合から聞いて、憤りを感じてしまった理香だった。

理香と別れて二人は家に帰ってきた。貴雄は志野がいなくなった場所まで小百合を連れて行き、これからは二人で生きてゆくと誓った。志野の死亡届が出せないからしばらくは入籍しないで小百合と暮らすことになる。小百合もそれは承知だ。

温かい日差しが残る山中を歩きながら、貴雄は志野との出逢いから全てを語り始めた。そして自分なりの結論を導き出して小百合に話した。

「志野はね、ボクに逢うために過去から来たんじゃないって解ったんだ」
「どうしてそう言えるの?」
「考えたんだよ。結論から言うと、小百合を助けるために志野は、いや志野の霊が祖先の自分にとり憑いて僕の前に現われたんだよ」
「私を助けるために・・・それは何故?何の因果が私と志野の間にあるって言うの?」
「よくは分からない。だけど、君が助かったのは志野とほぼ同じ身体をしていた、からなんだよ。医学的には親子同然という事なんだ」
「親子同然・・・母は全く違う顔と身体つきをしていたわ。どういう事なのかしら」
「そうなの・・・初めて聞いた。なるほど・・・そこか!」
「何が、そこなの?」
「小百合が重い病にかかって死ぬことを予測できたら、自分がその命の身代わりをしようって母親なら考えられる。君だって生まれてくる命と自分の命を引き換えに出来るだろう?」
「ええ、もちろんよ。生まれた命の方が大切ですもの、きっと」
「だろう、志野もそう考えたんだよ」
「解らないわ・・・」

貴雄は志野が小百合の祖母なのではなく母親なのではないかと考えていた。そうだとすると実の娘と関係する事になる。祖母だとする事より厄介だ。小百合に話すべきかどうか迷った。小百合の身体には志野の新しい血が流れている。確実に身体に変化を感じている事は、志野が残して行った二人への母心だったのである。

「貴雄さん、あなたが何を言いたいのか良く分からないけど、私はあなたが好き。あなたの子供を育ててずっと仲良く暮らしてゆきたい。それは叶えられない事なの?」
「叶えるよ、それがボクの使命だから。いや、小百合のことを大切にしたいからだよ」
「ほんと?信じていいのね」
「もちろんだよ。何が起ころうとボクと君が結ばれることが本当の志野の想いだったんだから」
「志野の?本当の想い・・・」
「そうだよ。君はボクの娘なんだよ。つまり志野の子供なんだよ。しかし、志野がボクの前に現われて君に肝臓を提供して自分の身体を小百合に写し変えたんだよ。わかるかい?」
「何故そんな事をしたの?」
「ボクと君とに赤ちゃんが生まれるようにだよ。本当の親子の血のままだったら・・・それが叶わないからね」
「じゃあ、貴雄さんとの間に生まれる子供は志野の子供でもあるっていう事?」
「そうだよ、志野は僕に対する自分の想いも君に残していったんだよ。そうする事で二人の気持ちがより強く繋がるって念じてね」
「それが本当なら・・・すごいことよね。あなたと私が経験した事は奇跡よね。そんな事が本当にあるだなんて・・・じゃあ、祖母が瓜二つだっていう事はどう説明するの?」
「小百合へのメッセージだと思うな。自分と似た女性と出逢った時に印象付けるためにね。そうじゃなかったら、ぼく達が立ち寄ったあの日、志野が君の祖母に似てなかったら・・・ただの観光客で終わっていたよね」
「何かの偶然で自分と良く似た女性を選んだのかしら」
「そうかも知れない。真田村である必要はなかったからね。何かの偶然だよ。未来からの時間軸がどこかでずれて、志野はその犠牲になったのだろう。500年前の志野にとり憑いた未来の志野がこの世界へと誘ってきたのかもしれない」
「500年前の志野だったのは何故かしら?」
「祖母と良く似た女性がその時代にいたからだよ。今ボクらが住んでる世界と志野がいた世界は別なんだ。接点はあの台風の目のようなものだったけど、繋がっている事は確かだよ」

小百合にも少しずつ置かれている立場が解り始めてきた。

「ねえ、貴雄さん。聞いて欲しい事があるの」
「なんだい?」
「私ね、志野から肝臓をもらってから自分の身体が変わり始めたの。ウソのように肌も若くなってきたし、生理も戻ってきた。胸だって大きくなった。このままどんどん若くなってゆくのかしら・・・だとしたら何か怖い事が起こるんじゃないのかって・・・心配なの」
「医学的にはありえないことだけど、それが本当なら志野の残した小百合を志野にするプログラムが動いているんだね」
「プログラム・・・私を志野にする?」
「そう、遺伝子に組み込まれた生まれ変わりのプログラム」

小百合はSF映画の筋書きのような話を貴雄から聞いて俄かには信じられなかったが、自分の身体が変化していることは事実だったから、そうなんだと思うようにした。そしてそのプログラムは脳にある小百合の記憶や行動プロセスにも働きかけてくる。

「きっと何年か過ぎたら私は顔も身体も志野みたいに変わっているのかもしれないね・・・そうだと嬉しいけど、貴雄さんはイヤ?」
「君がどんなに変わろうとも好きなのは今目の前にいる小百合だから・・・気にしないよ。志野に感謝はするけどね」
「ほんと?私が好きなのよね・・・良かった。生まれ変わってもきっと貴雄さんを見つけるから、志野がそうしたように、私も未来からあなたをまた探しに来るの」
「小百合・・・ありがとう」
「ううん、私こそありがとう。あなたに逢えなかったら・・・もう死んでいたから」

小百合はこの夜初めて貴雄を自分の中に受け入れた。志野から受け継がれたプログラムは確実に小百合と貴雄を結びつけた。
「貴雄さん・・・小百合は夢のようです・・・恥ずかしいけど、女でよかった・・・」
「小百合・・・素敵だったよ。君を離さないから・・・」