小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

こんばんは ⑥<蕪鍋(かぶらなべ)>

INDEX|3ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 大島は大き目の皿に蕪の皮を剥いて葉を切り落としたものを山盛りにして持ってきた。
 勿論落とした葉も載せてある。
「おやっさん、今日は何を食わしてくれるんですか?」
 湯気を立てている鍋の中は白濁した出汁がはってあり何が入っているのか、よく見えない。
「蕪の水炊きだ。おまえさん、若いくせに結構こんなもんが好きだったろ?
 爺じいのつくるもんだからサッパリし過ぎてるかもしれんが、まあ足りなかったら帰りに駅前の屋台でラーメンでも食ってけ。あそこのはなかなかうまいからな」
「へぇ、かぶらの鍋ですか、珍しいですね」
 大島の蕪鍋の中身はと言うと、さっと湯通しして表面をしめてから下茹でした骨付き鶏肉と、丸のままの蕪、それに蕪の葉だけである。
 まことにシンプルだ。
 小鉢に入れたポン酢に、大根に鷹の爪を一本だけ差し込んでおろした紅葉おろしが添えてある。
 炬燵板の上には他に、小女子の佃煮や、烏賊の塩辛など、つまりはスーパーかコンビニで買ってきたままの酒肴が寂しく置かれているのみであった。
「まあ食ってみろ。蕪はすぐに煮崩れるから商売にゃ向かんが、こうして家で飲るときにゃなかなかいいもんだ」
「それにすぐに火が通るから下ごしらえも殆ど要らん」
「おまえはビールでいんだろ? 悪いがワシはコレで飲らしてもらうよ」
 大島は中村にはコップと缶ビールを、自分には赤い紙パックの日本酒を冷のままコップに注いだ。
 中村が来る前にも一杯くらい飲んでいたのかもしれない。赤くなっている訳ではないが、酒が入っているのは何となく分かるものなのだ。

「それにしてもボクが鍋好きなのをよく憶えてましたね。鍋なんて一度か二度くらい宴会でご一緒しただけなのに……。ボクなんか自分が食べるのが精一杯で他人のことなんか全然憶えてないですよ」
 中村は大島が自分を気に掛けていてくれた事に感激しているようであった。
「長いこと刑事をやっているからな、一種の職業病だ……。ときどき見たくないものまで観察している自分に気が付く時があるよ」
 吐き捨てる様に言うと、大島はコップの酒をチビリと飲んだ。