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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは ② <リストラ男の憂鬱>

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 数日経っても一郎の就職は一向に決まらなかった。
 しかも昨日は、カードローンから借りた金を給料と称して妻に渡し、自分の財布には残り僅かとなっていた。
「こんばんは」
 大きくため息を吐いて駅前ロータリーのベンチに、やっと座った一郎に又もや例の老人が声を掛けてきた。
 そこはこの前の駅とはかなり離れており、路線も違っていたのに……。
「こんにちは、でしょ? おじいさん。まだ昼間なんだから」少々キツイ口調だった。一郎は苛立っていたのかもしれない。
「ほっほっほぉ、その様子では、仕事はまだお決まりでは無い様ですのぉ?」 
 にこやかな顔のどこかで一瞬きらりと何かが光った様に見えた。
 一郎は目をパチクリさせたが、それが何だったかは分からなかった。
「まあ、ここでは何ですから、又ハンバーガーでも食べながら話でもどうじゃろうか? 実は先日以来何も食べていませんのじゃ」

 結局、前回と同じパターンで老人は一郎からハンバーガー十個とシェイクをせしめた。
「仕事が決まっていないのでしたらどうです、私と商売をしませんか?」ズズズっとすごい音をさせてシェイクを飲み干しさらに大きなゲップを吐いてから老人は切り出した。
「実は私の故郷では金が大量に獲れますのじゃ。いえバイ菌とかではなくてゴォールドの金ですぞ。が、これは秘密でしてな、滅多な事では他人には話せません。知られたら大変な騒ぎになってしまいますからな」声はどんどん小さくなって行ったが、話の内容だけはしっかりと一郎の耳に届いていた。
 結局老人は故郷から取引きの相手を探す為にこの都会へやって来たらしい。
 口の堅そうな誠実そうな人間を……。
 そして、一郎に目星を付けたのであろう。
 一郎には金の取引きなど経験した事はなかったので、断らなければと思ったのだが、何故か自分の意志とは裏腹に老人の申し出を承諾してしまった。
 一郎は全てを妻に話し、親や親戚に借金までして事務所を開いた。
 妻は最初リストラを隠していた事に怒り、これまでの職探し等の苦労に涙してくれた。