こんばんは ② <リストラ男の憂鬱>
一郎はそれに気付いていたが老人の願いを聞いてやる事にした。老人に冷たくできる性格ではなかったのである。
「おじいさん、何が食べたいんですか?」
「え? 食べさせてくださるのか?」
自分から頼んだくせに、老人はひどく驚いた様だった。
おそらく何人もの人に声を掛け断られたのだろう。そう思うと一郎のなかに同情の気持ちが芽生えてきた。
「ではハンバーガーを……。いや、あれがなかなか好きでしてな……」老人は照れたように笑った。
ハンバーガー屋で二人は遅い昼食をとった。
一郎もまだ昼食が済んでいなかったのである。
一郎が飲み物やポテトを薦めると、意外にも老人はハンバーガーを5個追加しイチゴのシェイクも注文した。 申し訳無さそうにテレながら。
老人は注文したものをキレイに平らげた。痩せの老人にしてはすごい食欲である。
一郎は、この老人は痴呆でも始まっているのかもしれない、と思った。
「ふぅ、これで又数日は持ちますわい」
ズズズっとすごい音をさせてシェイクを飲み干した老人はニンマリと満足そうに微笑んだ。
「ところで、あなたはどうしてこの老人に付き合って下さるのか? 仕事は放っておいて良いんですかのぉ?」
余計なお世話だと思いつつもこれまでのいきさつを全て話してしまった。まるで催眠術にでも掛かった様に……。
聞き終えると今度は老人の方が、
「これは余計な事を聞いてしもうたか? すまんことをした。お金もお入用だったろうに」
一郎は逆に同情されてしまったようだ。
別れ際に老人は何度も頭を下げてお礼を言っていた。
作品名:こんばんは ② <リストラ男の憂鬱> 作家名:郷田三郎(G3)