こんばんは ② <リストラ男の憂鬱>
新しい事業に関しては難色を示したが、パートナーの老人に引き合わせると、すっかり安心して自分の親にも借金を申し込んでくれた。
新しい事務所……。
一郎はそこでいかにも社長らしい上等のオーダースーツを身につけていた。
そして奥の部屋では中型の金庫の様なものが僅かな振動と静かに唸るような音を立てている……
チン!と音がして一郎がその金庫を開けると、やけに小さなスペースで金の延べ板一枚が美しく輝いていた。
「今はこんな小さなマシンなので、一度に転送できる量もこんなものじゃが、建設中の工場が出来れば、大量に運び込むことも出来ますぞ」
出かけていたらしい老人が、奥の部屋に入ってきた。
「いえ、あそこは貴方へのお支払いだけに使うつもりです。金をダンプカーで運んだりしたら、本当にパニック、いや戦争が起きるかも知れない」
一郎は複雑な表情で答えた。
「ところで、植物に金の実が成るなんて、貴方の故郷は全く驚くべき星ですが、産業廃棄物を代わりに送り込んで一体何に使うのですか?」
怪訝そうな一郎の問いに……。
「新しい星を作りますのじゃ。いろいろな星から集めた材料で星を作り、金の植物を植える。今の星は後数百年で、スカスカになってしまう。金は我々にとっても重要な食料ですからのぉ、それでは困る訳ですよ」
結局、彼等の種族は産業廃棄物を食料に変えているという事なのだろうか?
「しかし、ハンバーガーというのはいつ食べても美味いものですのぉ」
大きな袋から取り出したハンバーガーをほお張りながら老人はニッコリと満足そうに微笑んだ。
一体この異星人はどういう食生活をしているのか? 一郎は首をかしげながら、時空転送機で送られてきた金の延べ板を大きな金庫にしまい込んだ。
いつか産業廃棄物が出ない世の中になれば、この商売も終わるのだろうか……?
「いや大丈夫ですよ。廃棄物じゃなくても、土でも岩でも水でも。空気だって良いのです」
作品名:こんばんは ② <リストラ男の憂鬱> 作家名:郷田三郎(G3)