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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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こんばんは ② <リストラ男の憂鬱>

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<リストラ男の憂鬱>こんばんは シリーズ②

「今晩は」
 不意に声を掛けられたのでちらっと見上げると一郎の目の前に老人が立っていた。
 真夏のまだ午後三時だというのにこんばんはとは?
 この声を掛けられた男――北沢一郎――は現在失業中である。
 今日も朝から会社を三軒程訪問し、何れも軽くあしらわれ、こうして駅前広場にあるベンチで缶のスポーツ飲料を飲み干したところだった。
 背後の樹上ではセミがうるさく鳴いていた。セミもこの暑さでやけくそになっているのかもしれない。
 ロータリーの向こう側が陽炎で揺れていた。

 輸入雑貨を扱う小さな商社に勤務していた一郎はこの不況のあおりをうけ、まだ三十台前半の働き盛りなのにも拘わらず、リストラされてしまったのである。
 しかもそのユニバーサル商事という商社は一郎をクビにして半月も経たないうちに倒産してしまった。
 在職のまま倒産していれば就職ももう少し楽だったかもしれないのだが……。
 まだ小さい一人娘には勿論だが妻にさえその事は知らせていなかった。今日も行ってきますと元気に声をだして出てきたのである。

「あのぉ済みませんが、何か食べ物を分けてくれませんかのぉ?」
 老人の喋り方はどこか子供が見るTVアニメに出てくるカメのソレに似ていた。
「はあ、他にも暇そうなひとは大勢いるのに何でオレなんだろう?」
 一郎は深いため息をついてもう一度老人を見上げたのである。
 ニコニコと愛想の良い老人が立っていた。
 かなり痩せていて顔の皺が深い。頭頂の髪は殆ど抜け落ちており、残った頭髪も既に真っ白だった。
「もう五日も食べておりませんのじゃ。ほれ、あの安売りのハンバーガーでもあっちの牛丼でも構いませんのですが……」
 老人は五日食べていない割には血色が良かった。